恋の花火はコーヒーのあとで
「どれどれ?」

「あそこ。オレンジ色のカーテン、三階の一番端」

「あ、あそこね。確かに俺の部屋からも繭香の部屋からも見えるな」

いつも本の貸し借りは主にコンビニ前でやり取りして、そのあとは繭香のアパート前で別れる、そんなことを繰り返してもう二年だ。

「ちょっと今後、あんま覗かないでよね」

「覗くかよっ」

そう笑って言いながら俺は再びキッチンに戻る。

(って……気になって覗くだろ……泣き虫なんだから)

繭香には言えないが繭香の部屋の場所を知った以上、俺はなんだかんだ、繭香が泣いてないか心配で、今晩からあのオレンジ色のカーテンを眺めることになるんだろう。

「繭香、そこ座ってて」

「うん」

繭香は俺に言われた通り二人掛けのソファーの右端に座ると、キョロキョロと俺の部屋に視線を流している。

「航平ってサッカー部だったの?」

「え? ああ、まぁ」

繭香はチェストの上に飾ってある高校の時のサッカー部の奴らで撮った集合写真を指差した。

「航平の茶髪新鮮」

「あんま見んな。てか繭香は? 書道部のとき染めてなかった?」

「あれを書道部って言ったっけ?」

「言ったから俺が知ってんだろ」

繭香は俺に話したことなんて忘れてるとは思ってたいたがやっぱり少々凹みそうになる。

「手書きの文字だけは自信あるの」

「へぇ」

ちなみに俺は以前から繭香の手書きの文字が綺麗だと知っていた。繭香がだいぶ前に、手書きの文字を課長に褒められたと頬を染めているを見て、それ以来口にすることができなかった。

「で? 髪は?」

「うーん、ずっと黒かなぁ。社会人になってうちの会社、茶髪全然オッケーだし染めてみようかなって思ったけど……課長がその……黒髪好きって知っちゃったから」

「なるほどな」

繭香にとって香田課長が一番。そんなことわかってる。

それでもやっぱり心臓の奥は針で刺されたように痛む。
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