恋の花火はコーヒーのあとで
繭香とは五年という長い付き合いだ。別に無言の時間は嫌じゃないし困らない。

ただひとつ、俺がこの五年、ずっと嫌だって思っていたのは繭香が香田課長のことで一喜一憂する姿を見ることだ。

まだ香田課長が宮本さんと付き合う前に会社の男たちだけで立ち飲み屋に行ったことがあった。その時、話の流れで好きな異性のタイプについて話題が上ったことがあった。

物流部の高橋さんから今の職場で好きなタイプはと聞かれた香田課長が、別に恋愛対象じゃないがと前置きした上で『放っておけないなと思うのは宮本さんかな』と言っていたことを思い出す。

繭香には勿論言えなかったけれど。

「……航平がいて良かったな」

繭香がポツリと呟くとマグカップをソファーの前の木製テーブルに置いた。

「なに急に」

「うん、なんか……失恋した夜って一人になりたいけど一人になりたくないって言うか……でも誰にでも弱いとこ見せれる訳じゃないから……」

「別に繭香の話聞くの慣れてるし、いつでも聞くから。今日だけじゃなくてこれからも」

「でも……あんまり聞いてて楽しい話でもないだろうなって……他人の……その、失恋話なんて」

そんなことない。繭香のことなら何でも知りたい。たとえそれが俺に向けられた言葉でも想いでもないとしても。

「……俺は聞きたい」

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