恋の花火はコーヒーのあとで
「え?」

繭香の目に宿るのは戸惑いと疑問だ。

「俺は……」

──繭香が好きだから。


そう、言ってしまいそうになる。もしそうすれば、繭香は俺のことを一瞬でも異性としてみてくれるのだろうか。

それとも同期としての感情以上をもつ俺と距離を取るのだろうか。

「……繭香の同期だから……」

自分に言い聞かせるように吐き出した言葉は思っていたより掠れていた。

「……ありがと」

繭香はそう言うと膝を抱えて、顔を腕の中に包んだ。

そして少しして、鼻をすする音が小さく聞こえてくる。

「……ごめ……っ……なんか」

「うん」

「いま弱ってて……優しくされると……勝手に涙でちゃって」

「いいよ。俺の前で我慢しなくて」

花火の時のように泣き出した繭香の小さな華奢な背中をそっと撫でる。

「……忘れ……られるのかな……」

「だから無理に忘れなくていいよ……あと香田課長のアシスタントしんどかったら、俺の担当につけて欲しいって部長に言ってみてもいいし」

そう言葉にしてから俺も大概、打算的で嫌な奴だなと自分自身に呆れてしまう。

繭香が課長と接する度に、仕事の話でも俺は二人の姿を見るのが面白くなかったから。

いま提案したのだって、俺が繭香ともっと話したいから。接したいから。一番の理由はそれで、繭香のためじゃない。

(最低だな)


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