恋の花火はコーヒーのあとで
寝転がれば、夜空には満月が浮かんでいる。藍色の夜空に瞬く小さな星たちと共鳴し合うかのように、優しく穏やかな光を放っている満月を俺は暫くじっと見つめた。


月が綺麗ですね──それは文豪、夏目漱石がアイラブユーをこう和訳したことから、奥ゆかしい日本人ならではの愛の告白の言葉とされ現代まで伝わっている。

「……月が綺麗とからなら言えるか?」

繭香は鈍い。でも、もしこんな言葉を俺から言われたとしたならば、本好きの繭香は察してくれたりするのだろうか。

「ありえねぇな」

そう、そんなクソ恥ずかしいことを言って、繭香に気づいてもらうくらいなら、素直に告白してこっぴどくフラれた方がマシだと思う。

「はぁあ……てか、勘づいてるよな。絶対」

今日の夜は、繭香にとって俺らしくない言葉をたくさん吐いたように思う。

夜が明けて、朝になったとき俺と繭香の関係は何か少しでも変わるのだろうか。


考えても考えてもわからない。


結局、言葉でしか人は想いをちゃんと伝えられないから。

「明日、コーヒー淹れてからだな」

俺は二つ並んだマグカップを見て、ふっと笑ってから静かに瞼を閉じた。

まだ何もわからない。まだ誰にもわからない。

だから伝えたい。ありのままに。


このほろ苦いコーヒーのような恋が──
報われないと知ってても。




2024.6.15 遊野煌




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