傾国の貴妃
「…ローラ」


「ローラ?」


「ええ。ローラと申します」


震える声でそう答えた私に、陛下は何度か私の名を復唱した。

シンシア以外の口から聞く、ローラという音。

それだけで、胸が震えた。


「…ローラ。ローラ、か」


陛下はそう言うと、今まで近すぎず遠すぎずの距離を保っていた私に、一歩、また一歩と近付いてきた。

そのたびに心臓が跳ねて遠退きたくなるのを必死に耐えて、私はその瞳を真っ直ぐに見上げる。

せめて、気丈に振る舞っていたかった。

贄である私にも、意志があるのだと主張したかった。

私の強がりとちっぽけなプライド。

陛下はピタリと私と触れるか触れないかの距離で立ち止まった。

ああ、ついに…

覚悟を決めるしか、ない…
< 19 / 107 >

この作品をシェア

pagetop