傾国の貴妃

籠の鳥

日が沈む。

水平線の向こう側へ、ゆっくりと。

朱色に染まった空が、だんだんと消えていく。

その有様に、ただなんとなく、胸が苦しくなった。



「ローラ様。お風邪を召してしまいます。そろそろ、お部屋へお戻り下さいませ」


「ん、もうちょっと」


「ローラ様」



国のちょうど中央にあるシルフィード城にやって来てから、もうすぐ一年になろうとしている。

今では私を“ローラ”と呼んでくれるのは、生まれ故郷である邑、ルシュドから連れてきた侍女のシンシアただ一人だけ。

ここでは私を皆変わらず“ルシュドの姫”と呼ぶ。

“ローラ”という名はもはや無いに等しかった。
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