傾国の貴妃
「クス、そう固まるな」


なんて、陛下のそのたった一言で私の精一杯の強がりは一瞬にして崩れ去ってしまった。

所詮は、諸刃の剣。

頬に触れる手は、当たり前だけど私のそれともシンシアのそれとも違い、ずっと大きくて、ゴツゴツと骨ばっていた。

何度も私の頬を往復する手に、私は動けなくなる。

固まるな、という方が無理というものなんじゃないか?

だって、私は何もかも初めてなのだ。

男の方とのこの距離も、必要以上の接触も、もちろん夜の営みも。

陛下は何が可笑しいのか、ずっと笑っている。


「…あ、の…」


なんだかこの空気に耐えられなくて、自分から言葉を発した。


「陛下、あの…」


「ああ、…はは、悪い」


陛下ってこんなに笑う人だったのだろうか?

なんだかいつもの雰囲気からは想像もつかない陛下の様子に、戸惑いは増すばかり。


「えっと…」


「安心しろ。俺はお前を抱くつもりはない」


「…え?」


「もとより、今宵の目的はローラを抱くことにはない」
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