傾国の貴妃
私の言葉を遮るようにして、陛下ははっきりとそう告げた。

では、何のために?

抱く、以外の何の目的で私の部屋へ来たのか。


「要は、口うるさい大臣を黙らすため」


淡々と告げた陛下の言葉が、静かな部屋に響く。


「大臣は俺が姫君たちを放置しているのが、気に入らないらしいからな」


つまり、私はカモフラージュ。

抱かれてもいないのに、きっと明日起きたら城中に広まっているだろう噂。


“陛下はルシュドの姫君を抱いた”


久しぶりの陛下のその行為は、瞬く間に城中を賑わせるだろう。


「…なぜ、私なんです?」


それは当然の疑問だった。

震える声でそう尋ねた私に、陛下はただ冷たい笑みを浮かべる。

私を映すその瞳に、温もりなんていう物は一切感じない。


「そんなの、考えればわかるだろう?ルシュドはシルフィードへの発言力が弱い。滅多に口出しできない立場だ。大きな邑の姫君より、ずっと扱い易い。…大きな邑の姫君は、父親にまで気を使う必要が出てくるからな」
< 22 / 107 >

この作品をシェア

pagetop