傾国の貴妃
「ルシュドは良い酒を作る」


思わず嗚咽を漏らし始めた私を気にしないかのように、陛下は自分もグラスに口を付けて笑った。

大きなベッドの上。

若い男女。

月明かりが眩しいくらいのこの部屋で、ただ酒を飲んで話すだけ。

なんだか不思議な光景のような気もしたけれど、これが当たり前なような気もする。

母国であるルシュドの味に、すっかり強張っていた気も溶けてしまった。


「たまにはこういう夜も良いな」


ポツリと呟かれた言葉に曖昧に微笑んだ私は、なんだか陛下にどう接していいのか戸惑っていた。

最初、冷たい眼差しを私に向けていた陛下。

ルシュドの贄と私を呼ぶのに、抱かないと言った陛下。

不意に笑顔を見せてくれると思ったら、手渡されたのは、懐かしいルシュドの味。
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