傾国の貴妃
それでもやはり、陛下と私の間には高い高い壁がある。

超えられない、超えてはならない壁がある。

私は贄なのだ。

陛下にとって、私はただの都合の良い女。

わかっているから、苦しかった。

このお酒も、その笑顔も。

気を許してくれているんじゃないかと、勘違いしそうになる。


「では、ローラ。今宵は邪魔したな。また来る」


空が明るくなりだした頃、陛下はそう言って扉の向こうへと消えた

“また”という言葉を残して。

結局、交わした言葉は少ない。

ずっと二人で変わりゆく空の色を見ていたから。

よく分からない男だ。

本当、分からない男…

一晩ですっかり空になったボトルからは、確かに懐かしいルシュドの香りが漂ってくるような気がした。
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