傾国の貴妃
君の名
「あら、これはルシュドの姫様ではなくて?」
それは、いつものように沈みゆく夕日を眺めていた時のこと。
「…お久しぶりでございます、エリザベート様」
思わず、その姿に驚いて息を呑む。
たくさんの侍女を従えたエリザベート様が、にこりと艶やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
煌びやかな衣装。
美しく輝く漆黒の髪。
いつ見てもその姿はどの邑の姫君よりも抜きん出て素晴らしいものがあった。
普通、それぞれの邑の名で呼ばれる姫君たちなのだが、エリザベート様だけはその名で呼ばれているのも、当たり前のこと。
そんなエリザベート様の方から私に話し掛けてくることは、この一年で初めてのことだった。
「本日はどちらまで?」
「ええ。少し陛下と、…それから父を交えまして、近くの湖まで行って参りましたの。それはそれは素晴らしく綺麗な湖で…。ルシュドの姫様にもお見せしたかったわ」
陛下、という単語にチクリと痛んだ胸に気付かないふりをして、曖昧に微笑む。
エリザベート様はその後もまるで自慢するかのように湖の話を繰り返し、私の表情から何かを読み取ろうとするかのように、ジッと私の瞳を見つめてくるのがわかった。
それは、いつものように沈みゆく夕日を眺めていた時のこと。
「…お久しぶりでございます、エリザベート様」
思わず、その姿に驚いて息を呑む。
たくさんの侍女を従えたエリザベート様が、にこりと艶やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
煌びやかな衣装。
美しく輝く漆黒の髪。
いつ見てもその姿はどの邑の姫君よりも抜きん出て素晴らしいものがあった。
普通、それぞれの邑の名で呼ばれる姫君たちなのだが、エリザベート様だけはその名で呼ばれているのも、当たり前のこと。
そんなエリザベート様の方から私に話し掛けてくることは、この一年で初めてのことだった。
「本日はどちらまで?」
「ええ。少し陛下と、…それから父を交えまして、近くの湖まで行って参りましたの。それはそれは素晴らしく綺麗な湖で…。ルシュドの姫様にもお見せしたかったわ」
陛下、という単語にチクリと痛んだ胸に気付かないふりをして、曖昧に微笑む。
エリザベート様はその後もまるで自慢するかのように湖の話を繰り返し、私の表情から何かを読み取ろうとするかのように、ジッと私の瞳を見つめてくるのがわかった。