傾国の貴妃
「いいのよ、私は。そんな愛のない行為をしたって虚しいだけだし」


「…ローラ様」


それも嘘じゃない。

自分の義務を誰よりも知っていながら、そんな行為を拒んでいる私がいる。

“ルシュドの姫君”として、ここに来て一年。

間近で陛下を見たのは、謁見の間での、初対面の一日だけ。

いつもいつも、陛下は遠い。

こういうふとした一瞬にしか、陛下を見ることさえない。

聞けば、陛下はどの邑の姫君とも、寝所を共にしたことはないらしい。

だからか、いつの間にか流れていた陛下に関する可笑しな噂。

誰も信じていないけど、みんなきっと心の中では疑っている。

…いや、あったかな。

確か、ただ一度だけ。

陛下の母君の生まれ故郷であるサマルハーン。

確かそこの姫君、エリザベート様と。
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