傾国の貴妃
「ちょっとね、思い出してた」


「何を?」


「ん~、いろいろよ」


にっこり笑って言葉を濁した私に、ギルは分かりやすく眉をしかめた。

ギルは隠し事を極端に嫌う。

ギルは私に距離を置かれるのを嫌う。


「何拗ねているの。あなた、国王陛下でしょう?」


少し笑って、ギルのその絹糸のようにさらさらの髪に指を通す。

痛み知らずのギルの金髪。

ギルは気持ち良さそうに瞳を閉じ、私にその身を預ける。


「…国王陛下って呼ぶな」


急にもぞもぞ動いたかと思ったら、不機嫌そうなそんな一言。


「うん。ごめんね」
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