触れたい、cross
突然、降り続いていた、痛いほどの雨粒が止んで。


盛大に戸惑いながら、歩みを止める。


「…声、かけたんすけど、雨のせいで聞こえなかったみたい、だったから」


頭上にかかる、ビニール傘。


ぶっきらぼうな、口調。


何を考えているのかわからない、瞳の色。


長い、金髪の前髪からは、雫が垂れている。


とてつもなく綺麗な顔の、黒いエプロンをつけた男のコが、雨に濡れるのも厭わずに、私に傘をさしかけている。


「…え、あの…濡れてます、よ…?」


びっくりして、私にさしかけられている傘を、避けようとする。


「…コーヒー、」


…え…?


雨音のせい、で、聞き返す。


「コーヒー、好きっすか…?」


思いもがけず、やわらかな声に、動きを止める。








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