触れたい、cross
彼にいざなわれて、先ほどのカフェの前まで来たけれど。


「…あの、私、こんなんだから、お店汚しちゃうかと…」


ドアを開けてくれた指さきを、見つめる。


細く、長い指さきはきっと。


汚いものには、触れたことがないんだろうな。


無意識に、考えている。


「いやいや、オレも濡れたんで。お互いさまって、ゆーか」


あったかいコーヒー、淹れるんで。


オレ、コーヒー淹れるの、得意なんす。


気がつくと、背中を押されている。


私なんかに触れたら、汚れてしまうんじゃないだろうか。


目の中に焼き付いている細い指さきを、頭の中で再生する。








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