触れたい、cross
彼女と彼に、お礼を言って、お店を出た。


払おうとしたコーヒー代は、『今日はいらないわ。また、来てね』


やさしく拒否をされた。


スーツケースひとつでふらふらと歩いていた、オンナに。


「旅行、かしら?」


「…あ、いえ…、引っ越して、来たんです…」


そんな会話だけ、で。


それ以上、詳しいことは聞かずに。


ゆっくりとコーヒーを飲ませてくれた。


ドアを開けたら、来たときと同じ、ドアベルがカラカラと鳴って。


なんだか。


なんだかそれだけで、『大丈夫』な、気がしている。






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