触れたい、cross
「…しっかり、聞こえてますけどー。舌打ちー」


後ろから、ふいにかかった、声。


同時に、握っていたスーツケースの持ち手が、ふわり、と、持ち上がって。


あの細い指さきが、ほんの一瞬、私の指に触れる。


…きゃ…ッ…!


思いがけない感触に、まるで灼熱の鉄を触ってしまったような感覚に襲われて。


瞬時に手を引っ込める。


同時に、傘を握っていた左手まで離してしまって。


気がついたら、舗道に尻もちをついている。


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