触れたい、cross
「…あの…、」


言いかけたコトバは、空中で、止まる。


「どうして、追いかけてきたかっ、て?」


その通りだけれど。


『追いかけてきた』なんて、自惚れているみたいで、コトバにすることは出来ない。


「気になったからー。あなたの、こと」


じゃ、ダメっすかー?


間延びした口調は、激しくからかわれている気がして。


羞恥心のあまり、頬が赤くなるのが自分でもわかって。


黙って、握られている右手を振り切って、スーツケースを彼の手から奪い取って、足早で歩き出す。



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