触れたい、cross
気がついたときには、もう。


ぼたぼたと、頬を伝う涙が顎も伝って、舗道に落ちる。


雨と混じって、ちょうどいいか。


私の涙など、雨に紛れるくらいで、ちょうどいい。


「すげー。むくれたり、恥ずかしがったり、泣いたり。忙しーす、ね」


「…うるさい…、」


「さーせん」


あっと言うまに、私に追い付いた彼が、黙って私の手からスーツケースを取り上げてしまう。


この辺、歩きづらいから。送ります。


有無を言わさず、歩き出す背中を、見つめる。

















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