触れたい、cross
ふたりで、アパートを並んで見上げている。


「2階、っす、ね」


彼が指を指している。


「…あの…、ほんとうに、ありがとうございました」


言いながら、スーツケースを受け取るために手を伸ばしたけれど。


「いやいや、中まで運びます。階段、危ないでしょ」


さっ、と、スーツケースを引っ込められた。


「…いや、で、も…」


「いいからいいからー、はい。昇りますよー」


もう、階段を昇っている、背中。



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