触れたい、cross
「みんな、『いおり』って呼ぶんで、『伊織』で大丈夫、っすー」


また、怠そうな口調に戻っている、横顔。


伊織くんがふいに、私のほうへ、視線を送るから。


霧雨の水分を含んだ空気が舞う、古くさいアパートの廊下、で。


しばし、見つめ合う。


一瞬、時間が止まった気さえ、して。


「……、」


「……、」


お互いに、ひたすら、無言、で。


でも、その目の色を、お互いに見つめている。





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