触れたい、cross
ふっ、と、視線を少し下げた、伊織くん。


その仕草だけでまた、この廊下の時間が動き出す。


「…入んないんす、か…?」


ドアを指差す、から。


「…あ…、入り、ます…」


ちいさくつぶやいて、ドアについている鍵穴に、カギを差し込んだ。


がちゃり、と、思いの外、大きな音が鳴って。


思わず、びくん、と、両肩をあげる。


「…ふふ、コソドロ、みてー」


ふわり、笑う伊織くん、に。


俯瞰で考えたら、その通りだ、と思い当たって。


「ほんとだねー」


私も笑って、返した。



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