触れたい、cross
ゆっくりと、ドアノブをまわして、ドアを開ける。


淀んだ、かび臭い匂いが、鼻をつく。


でも、窓を開ければ大丈夫そうだ。


安い家賃の割には、フローリングと畳の2部屋。


台所も、割りと大きいし。


思いながら、フローリングのほうの窓を開ける。


雨の香りが、ふわり、と、飛び込んできて、この部屋を満たしてくれる。


と、スーツケースを運んできてくれた、伊織くんが、畳の部屋の窓を開けてくれた。


「…あ、ありがとう」


お礼を言ったら、


いやいや、これくらい。


ちいさく、首を横に振った。








< 55 / 97 >

この作品をシェア

pagetop