触れたい、cross

「…ふーん…」


はい。コーヒー。


ことり、と、音をさせて、ベッドのそばのローテーブルに黒いマグカップをふたつ、載せた、伊織《いおり》くん。


鼻を突く、やわらかでそれでいて、濃く深いコーヒーの香り。


あわてて、ベッドの上や下に散らばっていた衣服を探す。


ショーツやジーンズやロンティーは見つかったの、に。


「もしかして、これー?」


伊織くんの人差しゆびに、ひっかかっている、レースたっぷりの、ショーツとおそろいの、白いブラジャー。


午後の日差しにさらされているそれ、は。


場違いも甚だしい。


久しぶりにショップで選んだ上下の下着。


25才のオトコに見せるために、30オーバーのオンナが選ぶシロモノか…?


急に襲ってくる、羞恥心。



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