触れたい、cross
その背中を見ながら、無意識に考えているのは、伊織くんとはじめて出会った日の、夜のこと。


ぐちゃぐちゃの、自分でもよくわからない感情を抱えてただ、泣いていた私に。


『さびしいんだったら、さびしーって、言わないと』


促してくれた、伊織くん。


素直に『さびしい、から、今夜だけいっしょにいて』告げた私に。


結局、朝まで付き合ってくれた。


伊織くんが買ってきてくれたサンドイッチを半分こして。


私が口をつけたペットボトルのお茶にも、迷いなく口をつけた。


「新しいの、買って来ようか?」


「なんでー?これで、じゅーぶん」


ほがらかに、笑ってみせた伊織くん。


そんなやり取りを、昨日のことのように、思い出す。







< 86 / 97 >

この作品をシェア

pagetop