7度目の身代わり婚は、溺愛不可避



両親の遺骨や遺品の行方についても重要だが、それは今考えることじゃない。
というか、どうして今まで忘れていたのか謎だが、ひとまず、預かってくれている人の正体は置いておいて、呼び方……千景様の、呼び方、か……。

「あの……すみません」

悩んだ末、答えは出ず。

「……正直、千景様でも畏れ多いんですが」

「なんでだよ」

「いや、橘家の御長男ですし……」

「それ言うなら、お前は緋ノ宮の長女だろ」

「……」

否定が出来ない。それは事実だからだ。

「その上、お前の母君は橘の分家である春ノ宮(ハルノミヤ)家と聞いたが」

「……」

これも否定できない。事実だから。

「血筋においても全く問題ないのに、一体何故、お前は大人しく、火神に良いように使われていたんだ?普通に不敬罪だぞ」

「いやぁ、それは……」

「お前は両親共に、“四季家”の出身じゃないか。一方、火神の当主は外部の人間だろ」

「それは……まぁ…はい……」

伯母が愛したのは、外部の人間。それはそう。
“四季家”と呼ばれる、春夏秋冬の家の出身ではない。その分家の出身ですらない。

「尤も、春ノ宮家とお前の母は絶縁状態だったそうだが……春ノ宮の当主とは知り合いか?」

「……一応、祖父と孫という関係ではありますが、顔を合わせたことはありませんでした」

何故なら、母が嫌がったからだ。そして、母が嫌がる相手に会いたいと思うほど、朱音に祖父への憧れなんてものはなかった。
祖父という存在への思いは、緋ノ宮の祖父が叶えてくれたし、春ノ宮の祖父が亡くなって、代替わりした話を聞いた時も、何も思わなかった。

薄情かもしれないが、本当に興味がなかった。
─だって、両親の葬式にも来なかったし。

「先代が亡くなった後、その妻が追放された話は聞いているか?」

「……えっ!!??」

「聞いてないんだな」

「聞いてないです!何ですか、それ……というか、私、一応、両親が生きていた頃までは、“四季家”とかについて学んでましたが、深い部分に触れる前に両親が亡くなったので、教育が中途半端なんです。千陽さんにお願いして、一応、家庭教師を手配してもらう予定ですが……」

「ああ、千陽から話は聞いてる。じゃあ、詳しいことはその家庭教師に学ぶといい。簡単に今起こっていることを説明しよう。その後に1度、顔を出しに行って、その後に婚姻届を出しに……」

「ちょっ、ちょっと、待ってください」

「ん?」

この後の予定を話されて、頭の中で整理していたら、まさかの婚姻届提出が1番最後。
早い方が良かったのでは…?という疑問が絶えず、朱音は思わず、彼を止めてしまった。
不敬とか、そんなことを言ってる場合じゃない。

「どうした?」

「あ、い、いえ……その、顔を出しに行くっていうのは……」

「ああ、四ノ宮(シノミヤ)家に」

「え、えっと、なんでわざわざ…?」

「だって、婚姻届出す前じゃないとだめだろ。“四季家”が危険な場所だということは知っていても、それは“百聞は一見に如かず”と言うし」

「それはそうですが……」

契約結婚なのに、彼は真面目過ぎやしないだろうか。わりと軽い気持ちで受けたことが申し訳なくなってしまうほど、彼は色々としてくれるみたいで、何をすれば、この恩は返せるだろう。


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