7度目の身代わり婚は、溺愛不可避


「朱音さん」

「はい」

「貴女の望みを何でも叶えるので、契約結婚をしてくれませんか」

「……そうして、緋ノ宮の全てを貴方に渡せと?」

分かりきっていた話の終着点。
朱音がそう聞き返すと、彼は笑って首を横に振る。

「後程、資料にて認めさせて頂きますが、離婚の際に緋ノ宮の全ての権限は貴女にお返しします。そうですね。貴女が完全に成人する、20歳を区切りにしてもいいかもしれません」

「……」

「悪い話では無いと思います。貴女は家から出た方が良いです」

「……何でも、願いを叶えてくれるんですか」

「ええ。叶えます。叶えさせますよ」

凄く悩む誘いだ。条件が良過ぎる。
そんな契約結婚を朱音に持ちかけて、彼に何の利益があるのか。

「…貴方は誰ですか」

「おや」

「今日のお見合い、三大名家のひとつである橘家とのお話のはずです。そちらのご両親もおらず、写真とは違う男性……悪戯ですか?」

「いいえ?」

「じゃあ」

「橘家の人間であることは嘘ではありません。写真の男は、僕の双子の兄なんです」

「え……」

「二卵生なので、似てはいないんですが。兄は美男でしょう?彫刻のように綺麗で。僕は父に似たのです。なので、兄のような綺麗な顔立ちはしてませんが、これでも、美男と…」

「ええ、とても美男ですよ。お兄さんとはタイプが違いますが。私は正直、貴方の方がタイプです。…お兄さんの方は、中性的な見た目なんですね?」

「……」

「?、あの?」

写真を広げて、兄の顔を見てみる。
確かに彫刻のように綺麗な顔ではあるが、あまり心は揺さぶられない。そもそも、恋愛のれの字の経験も無いので、恋が何かわからないが、顔のタイプで言うなら、目の前のこの人だ。

若干、冷たい印象を抱く写真の美男と違い、空気がほわほわしているような優しい、穏やかな雰囲気。優しい人なんだろうなぁって、妙な安心感を感じさせてくれる姿は、また違う魅力があった。

「─貴女、普段から言葉が直球すぎると言われませんか?」

「いえ、特には」

何か変なことを口にしたのだろうか。
自覚は無いが、私は良くも悪くも素直だとはよく、高校の友達に言われている。

「そうですか…………あいつ、大丈夫かな」

「?」

彼が頭を抱えて何か呟いたけど、よく聞こえない。

「─気を取り直して!結婚して欲しいのは、僕の兄となんです」

「この写真のイケメンと?」

「ええ」

「……」

写真だからか、あまり悪い印象は抱かない。
でも、彼が自分の結婚相手となると、むず痒い。
それが例え、契約によってなされるものだとしても……橘家は昔から付き合いがあった。
それこそ、両親が生きていた頃の話だが、当主夫妻はとても穏やかで優しい人達だったことを覚えている。

「離婚の際には、1生涯、遊んで暮らせるだけのお金をお渡しいたします。お渡しの仕方は自由ですが、毎月振込でもなんでも……」

─三大名家の中で1番を決めるならば、圧倒的に橘家だと言われるほどの金持ちである。
だからこそ、悩んでいる朱音にこんなことを言うのだろう。

そんなに朱音と契約結婚をなそうとする意図は読めないが、やっぱり悪い話では無いかもしれない。─物凄く、怪しい話ではあるが。


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