7度目の身代わり婚は、溺愛不可避



「……千陽と結婚させてあげれれば」

「え?」

今、口に出していただろうか。
いや、そもそも契約結婚だから、どっちでも良い話なんだが。楽しさを見出すならば、千陽さんだよなーくらいの気持ちしかないが。

「……すみません」

「はあ…さっきから何を考えているのかは知りませんが、どうして、そんなに静かなんですか?普段はそんな感じではないと聞いてますが……もしかして、千陽さんが言うように緊張してます?」

「……」

静かに目を逸らされる。─マジか。

「私との契約結婚、貴方、了承したのでは」

「勿論しました。貴女を大学に進学させる手続きもきちんと終わってます」

「それはありがとうございます。…というか、敬語じゃなくていいですよ?夫婦になりますし、私の方が年下ですし、何より、朱雀宮の分家の血筋ですから。貴方にそうされると、落ち着かないんです。宗家である橘の後継者が、そんな丁寧に私なんかに……」

「……」

手を掴まれた。静かに。けど、優しく。
思わず、喋るのをやめてしまって、朱音は目を瞬かせて、彼を見つめた。

「─わかった。敬語はやめる」

ほっとした。敬語がなくなったせいか、彼の雰囲気が変わったような。

「やめるから、言うな」

「はい?」

「私なんか、なんて、二度と言うな」

「……」

両手首が、彼の両手に包まれる。
懇願するような物言いに、立ったまま、呆然としてしまう。
彼は私の手を掴んだまま立ち上がると、

「俺と約束してくれ。─私なんか、は、」

「言わない?」

「うん」

「……わかった」

何なんだろう。彼は上半身を曲げ、懇願するように朱音と目線を合わせてきた。
あまりにも真っ直ぐで綺麗な瞳が、相変わらず何を考えているのか読めなかったが、優しさを孕んでいて、どこか懐かしさを覚える。

自然とタメ口で返事してしまったが、彼は気にしていないみたいだから、良しとしよう。



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