碧い夏の約束
翌朝。俺は瞬に課題を見てもらうことにした。

凛月「お願いします!瞬先生!」

瞬「誰だその先生は。ほら、始めんぞ。」

瞬の言葉を合図に課題を始めた。しかし、勉強が苦手な俺は一問目からお手上げだった。

凛月「…」

完全に手が止まった時、シャーペンでおでこをどつかれた。

ブスッ。

凛月「い、いってぇ~!!」

瞬「おい、見てやるって言ってんだからわかんなくなったら聞けよ。」

凛月「はぁ~い。」

瞬「で?どこだよ。」

凛月「一問目…。」

瞬「そこは…」

瞬が説明を始めた。すると、俺の脳は見事に理解した。

瞬「…ってなるわけ。わかったか?」

凛月「おう!完璧に理解したぜ!瞬説明うまいな!」

瞬「そうでもねぇよ。慣れてるだけだ。」

凛月「すげぇな~。そういや瞬は何やってんの?」

瞬「夏休み明けにある資格試験の勉強。」

凛月「うぇ~何書いてあんのか全然わかんねぇ…。」

瞬「あははっ!だろうな。ほら続けんぞ。」

凛月「おう。」

しばらく続けていると、俺は唐突な眠気に襲われた。

瞬「凛月、眠いのか?」

凛月「あぁ、なんか急に眠い…。」

瞬「一気に知識が入ってきたから脳が疲れたんだな、ちょっと仮眠するか?」

凛月「おう、ちょっと寝る…。」

瞬「おやすみ、いい夢を。」

瞬の優しい言葉と笑顔で安心し、俺は意識を手放した。



遥翔「速く来いよ!日が暮れちまう!」

凛月「待てよ!追いつけねぇって!」

遥翔「ついた〜!海!綺麗だろ?俺のお気に入り場所だ!」

凛月「ああ、本当に綺麗だ。」

遥翔「なぁ、凛月。これから離れ離れになっちまうけど高校3年の夏にここで会おうぜ」

凛月「ん?何で高3なんだよ?」

遥翔「成人じゃん?良い区切りだろ?」

凛月「あぁ、確かに。もちろんだ!約束な!」

遥翔「おう!約束だ!」

あぁ、久々にこの夢を見た。でも前と様子が違うように感じる。そう思った瞬間に世界は暗転し、また明るくなった時には事故に遭った当日の出来事だった。でも、視点は俺じゃなく遥翔だった。

【遥翔の心情】

【何でこんなことになった?俺が凛月を見ていなかったからだ。一緒に歩いて、もっと周りに注意していればこんな事故は起こらなかったんだ…。】

凛月「何言ってんだ。事故はお前のせいじゃないだろ。」

【俺が凛月を守るって約束したのに…、結果的に俺が守られた。俺は何て無力な人間なんだ…。大切な親友一人守れない…。あぁ、事故に遭ったのが俺なら良かったのに…。】

凛月「遥翔…?俺はお前を守れて良かったと思ってる、覚えてないけど絶対に後悔してない。なのに、何でお前がそんなに苦しそうなんだよ。」

【もう凛月の傍にいる資格なんてない…。俺は凛月に合わせる顔がない。俺は、もう駄目だ。凛月が起きる前に姿ごと消えてしまおう…。どうせもう引っ越さなきゃなんだ。】

凛月「遥翔っ!待ってくれっ!俺は、まだ…!」

遥翔は暗闇に消えてしまいそうになった。俺は何度も手を伸ばし、遥翔の名前を呼んだ。しかし、遥翔は遠ざかっていくばかり。俺の声が遥翔に届くことはなかった。

凛月「遥翔はあんなに思い詰めてたのか、今もか?いや、でも瞬に話を聞いて多少はマシになってるのかも…。でも、俺に会いたいと思ってるのか?俺がやってることは自己満足で、遥翔にとっては迷惑なんじゃないか?ならいっそ思い出さない方が…。」

そんなことを考えていると、心の中が黒く染まっていった。もう嫌になり、目を覚まそうとした。しかし、目が開かない。息がうまく吸えない。苦しい。

凛月「苦しい…助けて…。」

ギュッ。

誰かに抱きしめられている。頭を撫でられている。名前を呼ばれた。この声は、瞬だ。

瞬「凛月、そろそろ起きないか?」

瞬の優しい声に包まれ、俺は目を覚ました。



《瞬side》

凛月が眠りにつき、10分が経過した頃。少し休憩しようとストレッチをした。すると、凛月の苦しそうな声が聞こえた。

凛月「うぅ…、待てよ、俺は、まだ…。」

だいぶ魘されているようだ。冷や汗をかいている。俺は凛月の汗をそっと拭った。

瞬「大丈夫かよ…。」

すると、その悪夢の正体がわかった。

凛月「遥翔…。待ってくれ。」

遥翔の夢を見ているようだった。一体どんな内容なのだろうか。遥翔もたまに悪夢を見ているが、どうやら凛月も同じらしい。凛月はどんどん呼吸が浅くなっていき、身を縮めた。

凛月「苦しい…助けて…。」

その声が漏れた瞬間、反射的に凛月を抱きしめ頭を撫でていた。そして俺は声をかけた。

瞬「凛月、そろそろ起きないか?」

そこで凛月は目を覚ました。
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