ムーンライトベリーの香りが忘れられなくて
第17話 ここが心のよりどころ
愛香が家出をして3日は経っていた。ずっとそれまでは、内緒で千晃先生のアパートに雲隠れする。
先生という立場上、本当はダメだとわかっていたが、傷ついた愛香をほおっておけないとともに、自分自身の欲求に負けた。両想いだっていうのは何となく察していたし、同意の上でここにいるのだろうと感じていた。まさか、これで誘拐だなんだと責められたら、たまったもんじゃないなと、ため息をついて、シンクの中に電気ポットに入ったぬるいお湯を捨てて新しい水を加えた。コードをつないで沸騰ボタンを押す。だぼだぼのTシャツにハーフパンツを履いた愛香が、千晃先生の近くによってスマホを見せた。
「先生……お母さんからのメッセージ入ってた。あと、鬼着信も……どうしたらいい?」
「マジか。3日もかかるのか。お前の家は……夜勤とかしてたらそれどころじゃないってこと? 最悪な母親だな」
「うん、でも、いつものことだから。もう、求めてないの。それが当たり前だと思ってるよ、私」
看護師の仕事は過酷なのは知ってる。夜勤をしないと深夜手当で給料のかさましができない。焦りもあるのだろう。部下のしりぬぐいもあるが、たった一人で娘の大学費用をためないという気持ちも強くあった。ほぼ休みもない仕事に必死だった。それを代わりにやってくれる人もいない。母方の祖父母もとうの昔に亡くなっている。頼れる人もいないと視野も狭い。自分ひとりで頑張らなくちゃいけないと思うのだ。多少の親子関係差が雑でもなんとかなるだろうと母は思っている。
「確かなぁ、世の中の常識ってあるけどさ。お前んちの母さんは無理しすぎだよな。シングルマザーだから仕方ない部分あるけど。愛香だって、まだ10代の果敢なお年頃だろ」
「…………」
「たった一人の肉親は大事にしないといけないぞ。親と金はいつまでもあると思うなっていう言葉もあるからな」
千晃先生は愛香の頭をぽんと優しく触れた。頬を赤くして、母から来たメッセージに返信しようとした。
「先生、私って、ここにいること教えていいものなの?」
「うーん、どうしようかな。言うべきか言わざるべきか。あ、あーあのああいうこととかそういうこととかは言わないでくれるなら、別にここにいるって言ってもいいぞ」
「え? 先生? ああいうこととかそういうことってどういう意味ですか? 詳しく教えてください」
にやにやと笑いながら、愛香はずんずん迫って聞く。千晃先生は、たじたじになってそっぽを向く。
「大人をからかうんじゃない。わかるだろ、普通」
「えーーー、私、まだ子供だからわかりません。18歳にもまだなってないですし。教えてくださいよ」
「……もう、勝手にしろ」
恥ずかしすぎた千晃先生は、寝室の方に逃げて、扉をしめた。本気で怒ってしまったのだろうかと少し不安になったが、そんな一面もあるのだと、愛香はうれしくなった。まさか、担任の先生とこんな形で一緒に過ごすことになるとは思ってもみなかった。夢の中にいるようにそわそわした。愛香は、小高千晃先生のところにお邪魔させてもらってることを正直に母親にメッセージを送った。
すぐに返答が住所を教えなさいというので、即座に送った。まさかそのメッセージ予想外な出来事が起きるとは思いもしなかった。
愛香は、ご機嫌に冷凍庫からお気に入りの高級なバニラアイスを取り出して、アイス専用のスプーンで食べた。程よい溶け加減のアイスは舌ざわりが良かったが、一瞬して無くなった。美味しいものはほんの一瞬だ。
うれしい気持ちや楽しい気持ちほど短いものはない。
ベランダに出て、外を覗くと、星座のオリオンが綺麗に光っていた。今日の夜空は雲ひとつなく、月も綺麗に輝いていた。その光景がずっと続けばいいなと願った。
先生という立場上、本当はダメだとわかっていたが、傷ついた愛香をほおっておけないとともに、自分自身の欲求に負けた。両想いだっていうのは何となく察していたし、同意の上でここにいるのだろうと感じていた。まさか、これで誘拐だなんだと責められたら、たまったもんじゃないなと、ため息をついて、シンクの中に電気ポットに入ったぬるいお湯を捨てて新しい水を加えた。コードをつないで沸騰ボタンを押す。だぼだぼのTシャツにハーフパンツを履いた愛香が、千晃先生の近くによってスマホを見せた。
「先生……お母さんからのメッセージ入ってた。あと、鬼着信も……どうしたらいい?」
「マジか。3日もかかるのか。お前の家は……夜勤とかしてたらそれどころじゃないってこと? 最悪な母親だな」
「うん、でも、いつものことだから。もう、求めてないの。それが当たり前だと思ってるよ、私」
看護師の仕事は過酷なのは知ってる。夜勤をしないと深夜手当で給料のかさましができない。焦りもあるのだろう。部下のしりぬぐいもあるが、たった一人で娘の大学費用をためないという気持ちも強くあった。ほぼ休みもない仕事に必死だった。それを代わりにやってくれる人もいない。母方の祖父母もとうの昔に亡くなっている。頼れる人もいないと視野も狭い。自分ひとりで頑張らなくちゃいけないと思うのだ。多少の親子関係差が雑でもなんとかなるだろうと母は思っている。
「確かなぁ、世の中の常識ってあるけどさ。お前んちの母さんは無理しすぎだよな。シングルマザーだから仕方ない部分あるけど。愛香だって、まだ10代の果敢なお年頃だろ」
「…………」
「たった一人の肉親は大事にしないといけないぞ。親と金はいつまでもあると思うなっていう言葉もあるからな」
千晃先生は愛香の頭をぽんと優しく触れた。頬を赤くして、母から来たメッセージに返信しようとした。
「先生、私って、ここにいること教えていいものなの?」
「うーん、どうしようかな。言うべきか言わざるべきか。あ、あーあのああいうこととかそういうこととかは言わないでくれるなら、別にここにいるって言ってもいいぞ」
「え? 先生? ああいうこととかそういうことってどういう意味ですか? 詳しく教えてください」
にやにやと笑いながら、愛香はずんずん迫って聞く。千晃先生は、たじたじになってそっぽを向く。
「大人をからかうんじゃない。わかるだろ、普通」
「えーーー、私、まだ子供だからわかりません。18歳にもまだなってないですし。教えてくださいよ」
「……もう、勝手にしろ」
恥ずかしすぎた千晃先生は、寝室の方に逃げて、扉をしめた。本気で怒ってしまったのだろうかと少し不安になったが、そんな一面もあるのだと、愛香はうれしくなった。まさか、担任の先生とこんな形で一緒に過ごすことになるとは思ってもみなかった。夢の中にいるようにそわそわした。愛香は、小高千晃先生のところにお邪魔させてもらってることを正直に母親にメッセージを送った。
すぐに返答が住所を教えなさいというので、即座に送った。まさかそのメッセージ予想外な出来事が起きるとは思いもしなかった。
愛香は、ご機嫌に冷凍庫からお気に入りの高級なバニラアイスを取り出して、アイス専用のスプーンで食べた。程よい溶け加減のアイスは舌ざわりが良かったが、一瞬して無くなった。美味しいものはほんの一瞬だ。
うれしい気持ちや楽しい気持ちほど短いものはない。
ベランダに出て、外を覗くと、星座のオリオンが綺麗に光っていた。今日の夜空は雲ひとつなく、月も綺麗に輝いていた。その光景がずっと続けばいいなと願った。