ムーンライトベリーの香りが忘れられなくて
第30話 愛の迷路
スナックあじさいに千晃は、カウンターに体をもたれて、グラスの氷を指でくるくるとまわす。酔いがまわってきたようだ。
「ママ、俺、片想いの状態が好きだったかもしれないわ」
「……何を今さら。両想いなんでしょう。愛香ちゃんも好きでいてくれてるんでしょう」
眉をゆがませる。ママは新しくお酒を注ぐ。今度は麦焼酎の水割りだった。
「俺、今まで付き合ってきた人と長く続いた試しがない。釣った魚に餌はやらないじゃないけど、手に入れたら安心するのかどう接すればいいかわからない。勉強はできるけど、恋愛は若い時から失敗ばかりだ」
「……それは自慢かしら。高卒の私に言うの、それ」
「学歴じゃないでしょう。恋愛は」
「それはそうですけども!!」
グラスの曇りを晴らそうとおしぼりで拭く。その動作にママはㇵッとする。
「細かいね。千晃ちゃん」
「あ、これ。たまに気になってやりたくなる。別に他人に干渉するわけじゃない。自分が気になったときだけ」
「……そういうの相手にプレッシャーになる時あるから気をつけて。今、私、心にグサッとささった」
「……俺、別にママが悪いとか言ってないっすよ。」
「わかるけど、私が気づかないのが悪いのかなとか思うわけ」
「もう、何も言ってないのに……。ねぇ、ママ。この店に泊まってていい?」
「はぁ? なんでまたそういうこと。愛香ちゃんは?」
「今は、ちょっと考えたくない」
「ひどい発言ね。はっきりしてていいかなと思うけど……奥に仮眠室あるからそこで寝たら? 私は自宅に帰るけど」
「それはありがたい」
急に笑顔になる千晃は、ママに案内されて奥の部屋に雑魚寝する。ふとんがあるわけではない。座布団を枕がわりに自分の服がふとんがわりですぐに寝付いた。酔いも深まったところで相当眠かったようだ。
「まったく……困った人。これからって時に悩んでる場合じゃないでしょう」
ママは、奥の部屋から店の方に戻るとcloseにしていたはずの扉を開けて、出入り口にとある人がいた。
「わぁ!? 誰かと思ったわ。closeにしていたから人が来ると思わないし」
「こんばんは。お邪魔します。千晃先生来てなかったですか?」
「……そうね。さっきまでいたけど、帰ったわ」
「先生の車、駐車場にあったんですけど」
「そうだったの。さっきタクシー乗って帰ったわよ」
「…………」
残念そうな顔をして、愛香はうつむく。
「話、していく?」
黙って頷く愛香がいた。カウンターの席にそっと座る。
「オレンジジュース出すわね」
冷蔵庫に入れていた瓶入りのオレンジジュースをグラスに注ぐ。コースターの上に乗せた。
「いただきます……すいません。お金今持ってなくて」
「いいわよ。私のおごり」
「……ありがとうございます」
そういって、ぐびっと飲む。
「心のすれ違いは苦しいわね」
「……そうですね」
話を続けたくなさそうに話す愛香にママは続けた。
「片想いのままで良かったって思うことたくさんあるわ。人って長く付き合うと本性が見えてくるからがっかりすることがほとんどだわ」
ママの体験談をじーっと興味津々に聞く愛香だった。
「たとえ両想いでも愛の匙加減間違えると、お互いに苦しいから。本当難しいの。愛香ちゃん。まだあなたも若いからたくさん経験した方いいわ。その中で本当の愛に気づけるから」
愛香は、もっともらしい考えに納得するが、現状はそうもいかないと感じる。
「大人でも失敗ばかりだから。若いうちにたくさん経験しておけばよかったって思うわ」
「……そうなんですね。ママさんはモテモテなのかと思いました」
「モテてもいいことはないわ。1人に絞れる方がいいの。人の体は結局一つしかないんだから」
「確かに……」
「まだ18歳でしょう。これからよ。人生」
「……母がたくさん失敗してきたそうで。そうはなりたくないんですよね」
「反面教師ってやつね。それもありだわ。でも千晃先生はおすすめしないわ。私から見てもうまく行く姿は想像できない」
「……どうしてですか?」
「あなたはまだ若い。同級生とか先輩、後輩たくさんいるでしょう」
「それができたら苦労しません!!!」
愛香はそういわれて、衝撃的だったようで涙を流す。悔しい。悲しい。一緒になりたいと思う人とどうして一緒になってはいけないのか。もう教師をやめて高校生という肩書をやめているにも関わらず、反対される。この選択は間違っていたのかと、涙が大量にあふれて来る。真っ暗な道路を泣きながら、歩く。街灯に愛香の姿が現れると、不審な男が後ろから近づいて来る気配がした。
「ママ、俺、片想いの状態が好きだったかもしれないわ」
「……何を今さら。両想いなんでしょう。愛香ちゃんも好きでいてくれてるんでしょう」
眉をゆがませる。ママは新しくお酒を注ぐ。今度は麦焼酎の水割りだった。
「俺、今まで付き合ってきた人と長く続いた試しがない。釣った魚に餌はやらないじゃないけど、手に入れたら安心するのかどう接すればいいかわからない。勉強はできるけど、恋愛は若い時から失敗ばかりだ」
「……それは自慢かしら。高卒の私に言うの、それ」
「学歴じゃないでしょう。恋愛は」
「それはそうですけども!!」
グラスの曇りを晴らそうとおしぼりで拭く。その動作にママはㇵッとする。
「細かいね。千晃ちゃん」
「あ、これ。たまに気になってやりたくなる。別に他人に干渉するわけじゃない。自分が気になったときだけ」
「……そういうの相手にプレッシャーになる時あるから気をつけて。今、私、心にグサッとささった」
「……俺、別にママが悪いとか言ってないっすよ。」
「わかるけど、私が気づかないのが悪いのかなとか思うわけ」
「もう、何も言ってないのに……。ねぇ、ママ。この店に泊まってていい?」
「はぁ? なんでまたそういうこと。愛香ちゃんは?」
「今は、ちょっと考えたくない」
「ひどい発言ね。はっきりしてていいかなと思うけど……奥に仮眠室あるからそこで寝たら? 私は自宅に帰るけど」
「それはありがたい」
急に笑顔になる千晃は、ママに案内されて奥の部屋に雑魚寝する。ふとんがあるわけではない。座布団を枕がわりに自分の服がふとんがわりですぐに寝付いた。酔いも深まったところで相当眠かったようだ。
「まったく……困った人。これからって時に悩んでる場合じゃないでしょう」
ママは、奥の部屋から店の方に戻るとcloseにしていたはずの扉を開けて、出入り口にとある人がいた。
「わぁ!? 誰かと思ったわ。closeにしていたから人が来ると思わないし」
「こんばんは。お邪魔します。千晃先生来てなかったですか?」
「……そうね。さっきまでいたけど、帰ったわ」
「先生の車、駐車場にあったんですけど」
「そうだったの。さっきタクシー乗って帰ったわよ」
「…………」
残念そうな顔をして、愛香はうつむく。
「話、していく?」
黙って頷く愛香がいた。カウンターの席にそっと座る。
「オレンジジュース出すわね」
冷蔵庫に入れていた瓶入りのオレンジジュースをグラスに注ぐ。コースターの上に乗せた。
「いただきます……すいません。お金今持ってなくて」
「いいわよ。私のおごり」
「……ありがとうございます」
そういって、ぐびっと飲む。
「心のすれ違いは苦しいわね」
「……そうですね」
話を続けたくなさそうに話す愛香にママは続けた。
「片想いのままで良かったって思うことたくさんあるわ。人って長く付き合うと本性が見えてくるからがっかりすることがほとんどだわ」
ママの体験談をじーっと興味津々に聞く愛香だった。
「たとえ両想いでも愛の匙加減間違えると、お互いに苦しいから。本当難しいの。愛香ちゃん。まだあなたも若いからたくさん経験した方いいわ。その中で本当の愛に気づけるから」
愛香は、もっともらしい考えに納得するが、現状はそうもいかないと感じる。
「大人でも失敗ばかりだから。若いうちにたくさん経験しておけばよかったって思うわ」
「……そうなんですね。ママさんはモテモテなのかと思いました」
「モテてもいいことはないわ。1人に絞れる方がいいの。人の体は結局一つしかないんだから」
「確かに……」
「まだ18歳でしょう。これからよ。人生」
「……母がたくさん失敗してきたそうで。そうはなりたくないんですよね」
「反面教師ってやつね。それもありだわ。でも千晃先生はおすすめしないわ。私から見てもうまく行く姿は想像できない」
「……どうしてですか?」
「あなたはまだ若い。同級生とか先輩、後輩たくさんいるでしょう」
「それができたら苦労しません!!!」
愛香はそういわれて、衝撃的だったようで涙を流す。悔しい。悲しい。一緒になりたいと思う人とどうして一緒になってはいけないのか。もう教師をやめて高校生という肩書をやめているにも関わらず、反対される。この選択は間違っていたのかと、涙が大量にあふれて来る。真っ暗な道路を泣きながら、歩く。街灯に愛香の姿が現れると、不審な男が後ろから近づいて来る気配がした。