ムーンライトベリーの香りが忘れられなくて
第41話 潮の香り漂う複雑な心境
「こんばんは。お邪魔します」
愛香の母が千晃の実家に訪れていた。スマホで住所と地図を送信して、いますぐにでも愛香を迎えに来るよう促した。直接会話して、引き渡しをするのかと思いきや、大人げない態度でずっと部屋の中にこもっていた。
「ちーちゃん!! 愛香ちゃん迎えに来たわよ! ……なんだろうね。来ないわぁ。大の大人が大人げなくてごめんなさいね。本当に申し訳ない」
大量に泣き明かした愛香の頬には泣いた跡が残っていたが、母には気づかなかった。
「いえいえ、若気の至りってありますから。少し見守っていたんです。最初は冷静になれませんでしたが、まぁ……親子の冷却期間でちょうどよかったかもしれません」
「本当、思春期って大変よね。私たちは親子じゃなくて叔母と甥の関係だけど、それでも本気の口喧嘩よ。いつまで経ってもそれは変わらないわ。まぁまぁ、愛香ちゃんも良い社会勉強になったと思うわ。あ、店のバイトはどうする?」
「……続けたいですね」
「え、あんた、働いてたの? 高校生のくせに……やるわね」
「母さんほど稼いではないけどね」
「看護師と比べるんじゃないよ。いい経験じゃない。仕事するって大変でしょ」
「……まぁ。おばさん、私、まだ続けたいので、家から通いますね」
「え、そうなの? 早番とか大丈夫かしら」
「私、職場まで送りますから」
「あ、そう。なら、大丈夫ね」
「……いずれ、1人暮らしも考えておきますし」
「大人になったわね。社会に出ると変わるものね」
「いろいろとお世話になりました。この御恩は忘れません。小高先生にもよろしくお願いします」
愛香の母は、荷物を持ちながら、深々とお辞儀した。離れている時間が母にとっても、学ばされた期間だった。万智子は涙ながらに手を振って、別れを告げる。今が旬のシャインマスカットをお土産にしっかりと渡した。いなくなったことを確認してから、サンダルを履いた千晃が車に乗ろうと歩きだしていた。
「ちーちゃん!! 愛香ちゃん、帰ったよ」
「うっさいな。分かってるよ!!!」
反抗期の中学生のようにぶちきれた千晃はむしゃむしゃして、車を走らせた。海沿いの道路をずっと走っているとサーフィンを楽しむ人が何人か見えた。楽しそうにしている人を見ると悔しくなる。何がどう、間違えたのか。やりたいことをしていない自分に自暴自棄に陥る。
車の助手席に座る愛香は窓に頬をつけて、外を眺める。綿雲がたくさん浮かんでいるのが見えた。
「愛香、本当に良かったの?」
「え?」
「何か、不機嫌そうにしているから。本当に帰りたくて呼ばれたのかなぁ? って疑問」
「うーん、まぁ、不機嫌な時もあるよね」
「母さん、愛香が働いているって聞いて、びっくりしたわ。何か、成長したんだなぁって」
「そりゃぁ、18歳ですから。大人ですしね」
「20歳じゃなくて、18歳で成人ってちょっと納得できないけどね。車の免許取らないといけないわね」
「あ、そうか。車の免許取ったら、ここまで通いができるよね」
「そ、そうね。そうしてもらえると私も助かる。夜勤とかは送迎できないしね」
「……看護師って本当に大変だね」
「お? やっと母の仕事を理解してくれたかな」
「まぁ、少しだけね」
母の仕事には嫉妬ばかりが浮かぶ。一緒にいたいとどれだけ願っても稼がないとダメなんだというと諦めなければならない。小さい頃から仕事が憎いと思っていた。もっと自分を見てほしい。一緒に遊んだり、公園行ったり、映画行ったり、いろんなところに行きたかった思いが残る。冷静に考えると、大人になってからの方が行きやすいんじゃないかと思いついた。
「母さん」
「ん?」
「今度、映画行こうよ」
「え? 何を急に。気持ち悪い」
「いいから」
「まぁ、別にいいけど。何見るのよ」
「刑事もの」
「あー、あの話題作? いいわね」
「でしょう。行こう」
大事にしなければならないのは母だったかもしれないと感じた愛香だ。親子2人で過ごす時間、今は集中しようと考えた。車は海沿いを走っていく。窓を開けると潮の香りが漂っている。少し遠くで波の音が聞こえて来た。
愛香の母が千晃の実家に訪れていた。スマホで住所と地図を送信して、いますぐにでも愛香を迎えに来るよう促した。直接会話して、引き渡しをするのかと思いきや、大人げない態度でずっと部屋の中にこもっていた。
「ちーちゃん!! 愛香ちゃん迎えに来たわよ! ……なんだろうね。来ないわぁ。大の大人が大人げなくてごめんなさいね。本当に申し訳ない」
大量に泣き明かした愛香の頬には泣いた跡が残っていたが、母には気づかなかった。
「いえいえ、若気の至りってありますから。少し見守っていたんです。最初は冷静になれませんでしたが、まぁ……親子の冷却期間でちょうどよかったかもしれません」
「本当、思春期って大変よね。私たちは親子じゃなくて叔母と甥の関係だけど、それでも本気の口喧嘩よ。いつまで経ってもそれは変わらないわ。まぁまぁ、愛香ちゃんも良い社会勉強になったと思うわ。あ、店のバイトはどうする?」
「……続けたいですね」
「え、あんた、働いてたの? 高校生のくせに……やるわね」
「母さんほど稼いではないけどね」
「看護師と比べるんじゃないよ。いい経験じゃない。仕事するって大変でしょ」
「……まぁ。おばさん、私、まだ続けたいので、家から通いますね」
「え、そうなの? 早番とか大丈夫かしら」
「私、職場まで送りますから」
「あ、そう。なら、大丈夫ね」
「……いずれ、1人暮らしも考えておきますし」
「大人になったわね。社会に出ると変わるものね」
「いろいろとお世話になりました。この御恩は忘れません。小高先生にもよろしくお願いします」
愛香の母は、荷物を持ちながら、深々とお辞儀した。離れている時間が母にとっても、学ばされた期間だった。万智子は涙ながらに手を振って、別れを告げる。今が旬のシャインマスカットをお土産にしっかりと渡した。いなくなったことを確認してから、サンダルを履いた千晃が車に乗ろうと歩きだしていた。
「ちーちゃん!! 愛香ちゃん、帰ったよ」
「うっさいな。分かってるよ!!!」
反抗期の中学生のようにぶちきれた千晃はむしゃむしゃして、車を走らせた。海沿いの道路をずっと走っているとサーフィンを楽しむ人が何人か見えた。楽しそうにしている人を見ると悔しくなる。何がどう、間違えたのか。やりたいことをしていない自分に自暴自棄に陥る。
車の助手席に座る愛香は窓に頬をつけて、外を眺める。綿雲がたくさん浮かんでいるのが見えた。
「愛香、本当に良かったの?」
「え?」
「何か、不機嫌そうにしているから。本当に帰りたくて呼ばれたのかなぁ? って疑問」
「うーん、まぁ、不機嫌な時もあるよね」
「母さん、愛香が働いているって聞いて、びっくりしたわ。何か、成長したんだなぁって」
「そりゃぁ、18歳ですから。大人ですしね」
「20歳じゃなくて、18歳で成人ってちょっと納得できないけどね。車の免許取らないといけないわね」
「あ、そうか。車の免許取ったら、ここまで通いができるよね」
「そ、そうね。そうしてもらえると私も助かる。夜勤とかは送迎できないしね」
「……看護師って本当に大変だね」
「お? やっと母の仕事を理解してくれたかな」
「まぁ、少しだけね」
母の仕事には嫉妬ばかりが浮かぶ。一緒にいたいとどれだけ願っても稼がないとダメなんだというと諦めなければならない。小さい頃から仕事が憎いと思っていた。もっと自分を見てほしい。一緒に遊んだり、公園行ったり、映画行ったり、いろんなところに行きたかった思いが残る。冷静に考えると、大人になってからの方が行きやすいんじゃないかと思いついた。
「母さん」
「ん?」
「今度、映画行こうよ」
「え? 何を急に。気持ち悪い」
「いいから」
「まぁ、別にいいけど。何見るのよ」
「刑事もの」
「あー、あの話題作? いいわね」
「でしょう。行こう」
大事にしなければならないのは母だったかもしれないと感じた愛香だ。親子2人で過ごす時間、今は集中しようと考えた。車は海沿いを走っていく。窓を開けると潮の香りが漂っている。少し遠くで波の音が聞こえて来た。