ムーンライトベリーの香りが忘れられなくて

第50話 ほろ苦い思いが見えかくれ

―――あれから4年の歳月が流れた。

街の喧騒の中、ふらふらと居酒屋の暖簾をよけて出て来たのは小野寺暁斗だった。

「暁斗ー、待ってって。お前、飲みすぎだろ」

 高校同級生 玉城 彰晃(たまきあきてる) と2人で飲みに来ていた。

 IT企業に就職して3カ月。そろそろ、仕事にも人間関係にも慣れてきて会社に不満出るころだった。この日は、あまりにもストレスがたまっていて、発散したいと街中の居酒屋で飲んでいた。あれやこれや不満をぶちまけて、ふらふらになるくらいに飲みすぎていた。

ふと両端に店が並ぶ石畳の道を歩いていると、反対側から見たことのある2人が腕を組んで歩いてくる。男性側の方がふらふらと酔っている。

「あ、もしかして!?」

 玉城 彰晃が大きな声で叫んで2人に近づいていく。

「おいおい、お2人さん。校長に追放されたんじゃないの? 2人でいるってことは?」

 テンション高めに指をさす。白いシフォンレースのワンピースをひらひらと身に纏っていたのは白崎愛香。その隣にいるのは灰色のスーツをビシッと着ていた小高千晃だった。

「玉城か? 懐かしいなぁ。まさか、こんなところで愛香の同級生に合うとはなぁ。隣にいるのは? ……まさか。疫病神か?」

 じーっと暁斗の顔を上から下まで眺めてから千晃は言う。愛香は背中をバシッとたたいた。

「久しぶりに会ってそう言うこと言わないの。かわいそうだよ」
「悪い悪い。なんだ、暁斗、仕事してたのか? 大学には結局行くの辞めたんだよな。勉強してたのに……」
「……そ、その節はお世話になりました。疫病神もお役に立てませんで、ねえ? ハハハ」

 暁斗は複雑な顔で笑った。会いたくない人に会った。片想いし続けて結局その恋は実らずに千晃に花を持たせた形になった。恋のキューピッドというやつだ。

「元気そうで何よりだよ。玉城は今何やってるんだ?」
「営業部担当で会社に貢献してますよ。すぐそこの会社です」
「大手の会社を名前を言わずに指さすところが玉城らしいなぁ」
「……まぁ、まぁ。いいところで働かせてもらってますね」
「玉城はそれなりに成績良かったもんなぁ。何年も会わずにいると変わるもんだな」
「俺だって、ここ数年、3社の会社を出たり入ったりしてましたよ」
「おうおう、フットワークが軽くていいな。いいじゃないか別に。今が良ければ」
「……まぁ確かにその通りっすよ。一つの会社に縛られてたら、自分の首絞めますからね。人生を謳歌しないと!」
「人生の教訓みたいなこと言ってなぁ。てか、白崎は? 先生と一緒ってことは?」
「……うん」
 愛香は詳しいことは言わずに静かに頷くだけだった。その様子を見た千晃は口を開く。

「すぐそこの高級割烹で結納を終えたところだ」
「「えーーー?!」」
 2人は目を大きく目を見開いて、驚いた。

「ゆ。結納?」
「悪いだけど、結納ってなんすか」
 玉城は、二度見して暁斗に聞く。

「それくらい知っとけよ。婚約だよ。婚約」
 千晃は呆れて大きな声を出してしまう。

「マジっすか。ついに2人は結婚するんですね。まさかの展開で、ここまで関係が続いていたとは」
「あーーー、ずっと付き合ってたわけじゃないけどな。一番、暁斗がそのことを知ってると思うけど」
「落ち着くところに落ち着いたってことっすね。良かったじゃないですか」
「……ああ、そうだな」

 にこにこの笑顔のまま、何も話さずにその場をやり過ごした。街に出向いた理由は、千晃の叔母叔父と、愛香の母との食事を設けてるために真剣な話ができるように叔父が決断したことだった。想像以上にかしこまった雰囲気になっていたが、無事結納の儀式を終えることができた。2人の時間を大切にと、2人で街の飲み屋さんに繰り出したところに同級生の2人に会った。懐かしい千晃の一面を見ることができて、ほほえましかった。


 暁斗は横目から2人の幸せそうな様子を見て、悔しい思いと安心感が合いまった気持ちでいた。
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