ムーンライトベリーの香りが忘れられなくて
第51話 晴れ舞台
爽やかな青空の下では小鳥たちが飛び交っていた。
木々の隙間から太陽の光が差し込み、自然豊かな緑が広がっていた。
ここは、街から離れた小高い丘にあるガーデニングウエディング会場だ。
今日は、小高千晃と白崎愛香の結婚式当日だ。
ウエディングドレスを着飾った愛香は白い手袋を持って、大きな鏡を見つめた。オルゴールのBGMが響いていた。あと数分後には挙式が始まる。本当に結婚していいのだろうかと心配になる。
千晃との出会いは高校の担任の先生と生徒だった。
当時は、恋の対象相手として見てはいけない相手だ。いろいろあって、校長先生から2人の中を引き離された。高校も退学することになり、先生は高校を退職した。数年間かけて、今の小高塾にも生徒が順調に増えて、仕事も安定してきていた。愛香は、スーパーマーケットでアルバイトを高校を中退した際に千晃の叔母の万智子にすすめられて、働くことになり、徐々に仕事が楽しくなってきていたが、このままではいけないと、心機一転して、母の背中を見ながら准看護師の専門学校に通うことした。せわしない日々を過ごして、どうにか資格を取りつつ、今の内科・小児科の外来看護師になることができた。女子寮で過ごすことが多くて、最近までめっきり全然千晃に会うことはなかった。まさかこうやって結婚までとんとん拍子にすすむなんて思いもしなかった。風邪をひいた千晃と偶然の再会を果たした。患者として訪れたクリニックが愛香が勤める職場とは知らなかった。久しぶりの再会でも意気投合して、自然の流れでデートの約束していた。お互いにフリーで相手がいなかったこともタイミングなんだろう。
これで本当に良かったのかと鏡を見て、いつの間にか涙がこぼれる。
嬉しいようで不安なようで。いろんな出来事があって、ここまでやってきたが、安心できない何かがある。成人しているのに、ダメだと言われた校長先生の言葉が脳裏に浮かぶ。
「愛香……?」
タキシードに着替え終わった千晃は、静かに涙を流す愛香に近づいた。
ドレッサーの前の椅子に座った愛香の姿は純白ドレスでキラキラしていた。
千晃の頬は少し赤くなる。
「あ、うん。なんでもない。大丈夫」
「……不安?」
千晃は愛香の顔を体にぎゅっと引き寄せた。愛香は千晃の背中に腕をまわす。
愛香のぽんぽんと頭をなでた。
「フラッシュバックしてた。高校の時のあの屋上」
「あーーー、バーコードハゲのあいつな」
「…………笑かさないで」
「あとなんて言えばいいんだよ。……あいつ、とっくに定年退職してるわ。確か小学校の用務員してた気がする」
「校長先生をあいつって言うとは思わなかった」
「……恨み辛みがあるから名前で呼びたくないもんね。今は何も制限するもの無いだろ。成人式も終わってるんだし」
慰めようと千晃は顔を近づけようとするが、愛香の手がそれを止めようとする。
「おい、何で止めるんだよ」
「儀式の前にしてどうするのよ」
「何言ってるんだよ。前から数えきれないほどしてるだろ。今更、気にするなって」
とさらに顔を近づけてキスしようとするが、扉の外から大きな声で叫ぶ3人がいる。
「「「まだだ(よ)!!」」」
千晃の叔母と叔父、愛香の母が式の前にどんなものかと覗きに来ていた。親族のみの小さな結婚式のため、自由に2人の衣装を見ることができた。
「あっちゃー。まさか、言われると思わなかった」
千晃は、顔を猿のように真っ赤にさせて、両手で隠した。
「本番まで我慢しろよ。せっかくのベールの意味がないだろ」
「今の時代、手を出すのは早いって分かるけど、今日くらいは我慢よ」
と叔母と叔父。
「……できれば、本番のシャッターチャンスまでやらないでほしいわね」
愛香の母。
「みんなに怒られてる先生っておかしいね」
愛香は、くすくすと笑った。雰囲気が和やかになって気持ちが落ち着いてきた。過去は忘れて、未来を見よう。
この家族で楽しく過ごす情景が夢のように思い浮かぶ。もう、結婚に迷いはない。
ウエディングプランナーの斎藤さんが、ドアをノックした。そろそろ時間だと案内される。
「愛香、行こうか」
手を伸ばして、愛香の手をぎゅっと握った。満面の笑みを浮かべて、愛香は立ち上がった。キラキラとドレスついているレースが風風で揺れた。
「先生、ずっと一緒だからね」
「ああ」
家族と牧師の前で愛を誓い、お待ちかねの誓いのキスを拍手鳴り響く中で優しくした。
緑一面に広がったガーデンには白いテーブルと椅子が並べられている。
青いキャンバスの空に絵具をまき散らしたようにたくさんの風船が色鮮やかに飛んでいった。
ピンクの花がまとめられたブーケを階段の高い位置から投げられた。
まさかの愛香の母が受け取った。
シングルマザーにとっての母にとっては嬉しいものだった。
「嘘、次は私の番?」
「……相手を見つけてからにしてね、お母さん」
「そ、それはもちろん。相手いるから結婚するに決まってるでしょう」
終始和やかな様子で会場は盛り上がっていた。
これからは2人の幸せがステージが始まっていくだろう。
雲ひとつない青い空には飛行機雲が遠く長く続いていた。
【 完 】
木々の隙間から太陽の光が差し込み、自然豊かな緑が広がっていた。
ここは、街から離れた小高い丘にあるガーデニングウエディング会場だ。
今日は、小高千晃と白崎愛香の結婚式当日だ。
ウエディングドレスを着飾った愛香は白い手袋を持って、大きな鏡を見つめた。オルゴールのBGMが響いていた。あと数分後には挙式が始まる。本当に結婚していいのだろうかと心配になる。
千晃との出会いは高校の担任の先生と生徒だった。
当時は、恋の対象相手として見てはいけない相手だ。いろいろあって、校長先生から2人の中を引き離された。高校も退学することになり、先生は高校を退職した。数年間かけて、今の小高塾にも生徒が順調に増えて、仕事も安定してきていた。愛香は、スーパーマーケットでアルバイトを高校を中退した際に千晃の叔母の万智子にすすめられて、働くことになり、徐々に仕事が楽しくなってきていたが、このままではいけないと、心機一転して、母の背中を見ながら准看護師の専門学校に通うことした。せわしない日々を過ごして、どうにか資格を取りつつ、今の内科・小児科の外来看護師になることができた。女子寮で過ごすことが多くて、最近までめっきり全然千晃に会うことはなかった。まさかこうやって結婚までとんとん拍子にすすむなんて思いもしなかった。風邪をひいた千晃と偶然の再会を果たした。患者として訪れたクリニックが愛香が勤める職場とは知らなかった。久しぶりの再会でも意気投合して、自然の流れでデートの約束していた。お互いにフリーで相手がいなかったこともタイミングなんだろう。
これで本当に良かったのかと鏡を見て、いつの間にか涙がこぼれる。
嬉しいようで不安なようで。いろんな出来事があって、ここまでやってきたが、安心できない何かがある。成人しているのに、ダメだと言われた校長先生の言葉が脳裏に浮かぶ。
「愛香……?」
タキシードに着替え終わった千晃は、静かに涙を流す愛香に近づいた。
ドレッサーの前の椅子に座った愛香の姿は純白ドレスでキラキラしていた。
千晃の頬は少し赤くなる。
「あ、うん。なんでもない。大丈夫」
「……不安?」
千晃は愛香の顔を体にぎゅっと引き寄せた。愛香は千晃の背中に腕をまわす。
愛香のぽんぽんと頭をなでた。
「フラッシュバックしてた。高校の時のあの屋上」
「あーーー、バーコードハゲのあいつな」
「…………笑かさないで」
「あとなんて言えばいいんだよ。……あいつ、とっくに定年退職してるわ。確か小学校の用務員してた気がする」
「校長先生をあいつって言うとは思わなかった」
「……恨み辛みがあるから名前で呼びたくないもんね。今は何も制限するもの無いだろ。成人式も終わってるんだし」
慰めようと千晃は顔を近づけようとするが、愛香の手がそれを止めようとする。
「おい、何で止めるんだよ」
「儀式の前にしてどうするのよ」
「何言ってるんだよ。前から数えきれないほどしてるだろ。今更、気にするなって」
とさらに顔を近づけてキスしようとするが、扉の外から大きな声で叫ぶ3人がいる。
「「「まだだ(よ)!!」」」
千晃の叔母と叔父、愛香の母が式の前にどんなものかと覗きに来ていた。親族のみの小さな結婚式のため、自由に2人の衣装を見ることができた。
「あっちゃー。まさか、言われると思わなかった」
千晃は、顔を猿のように真っ赤にさせて、両手で隠した。
「本番まで我慢しろよ。せっかくのベールの意味がないだろ」
「今の時代、手を出すのは早いって分かるけど、今日くらいは我慢よ」
と叔母と叔父。
「……できれば、本番のシャッターチャンスまでやらないでほしいわね」
愛香の母。
「みんなに怒られてる先生っておかしいね」
愛香は、くすくすと笑った。雰囲気が和やかになって気持ちが落ち着いてきた。過去は忘れて、未来を見よう。
この家族で楽しく過ごす情景が夢のように思い浮かぶ。もう、結婚に迷いはない。
ウエディングプランナーの斎藤さんが、ドアをノックした。そろそろ時間だと案内される。
「愛香、行こうか」
手を伸ばして、愛香の手をぎゅっと握った。満面の笑みを浮かべて、愛香は立ち上がった。キラキラとドレスついているレースが風風で揺れた。
「先生、ずっと一緒だからね」
「ああ」
家族と牧師の前で愛を誓い、お待ちかねの誓いのキスを拍手鳴り響く中で優しくした。
緑一面に広がったガーデンには白いテーブルと椅子が並べられている。
青いキャンバスの空に絵具をまき散らしたようにたくさんの風船が色鮮やかに飛んでいった。
ピンクの花がまとめられたブーケを階段の高い位置から投げられた。
まさかの愛香の母が受け取った。
シングルマザーにとっての母にとっては嬉しいものだった。
「嘘、次は私の番?」
「……相手を見つけてからにしてね、お母さん」
「そ、それはもちろん。相手いるから結婚するに決まってるでしょう」
終始和やかな様子で会場は盛り上がっていた。
これからは2人の幸せがステージが始まっていくだろう。
雲ひとつない青い空には飛行機雲が遠く長く続いていた。
【 完 】