きみに恋した数ヶ月。〜君にさようならをする時〜

梅雨に出会ったきみは

ザァー

僅かな余命かもしれない私の身体に雨が打つ。


もう、これで終わりにしよう。



生きる希望なんて無い私には「死」という選択しか無いのだから。



歩道橋に手を掛ける。


下をみるとトラックがビュンビュン走っている。



大丈夫。



もう、誰のせいでもない。私は、私の選択をした。



さようならー。




そう言って、身体を風に身を任した。




「おいっ!」


パシッ!



崩れかけた私の身体の一部、腕を男の子が掴んでいる。



その瞬間、私はその男の子に恋をした。





「何やってんだよ!バカ!」




その、怒号の声にハッとした。



男の子に引っ張られ、私の身体は持ち上がる。




持ち上がった身体は、歩道橋の道に乱暴に投げられた。



「イッタッ!」



「それで、痛いって言ってんのによく死のうとしたな」


顔をあげると、ずぶ濡れの髪と顔。


もともと、整った顔立ちをしているのか雨のせいで余計に綺麗だった。



「な、何で?何で死なせてくんないの?」


乾いた声が私の耳に届いた。



「お前、未来なんて考えねぇのかよ」


未来?ていうか、知らない人に普通に話せているんだけど…。

「未来なんて、私には訪れないから」



「そうか?信じていれば起きると思うぜ。今だって、さっきの死のうとした未来じゃねぇか。もし、俺が助けに入らなかったらこんな未来なんて起きてねぇぞ」


たしかに。男の子にたすけられなかったらこんな未来はなかった。



「そう、だね。ありがとう、助けてくれて。あぁ、でも何で助けたの?」



「お前…」


ギュッと唇を噛んだ男の子。でもすぐに口を開いた。


「お前には頼みたいことがあるから、死んでもらっちゃ困るんだよ」



はぁ?頼みたいことがある??私、何しろって?



「頼みって?」


「感情探し」


ニヤリとした男の子。



感情探し??感情って、面白い、嬉しい、とかの?




「ちょ、ちょっと待って。理解不能」




「八木愛」


八木愛。私の、名前…。



「な、何で私の名前…」


知っているの?と言おうとしたが声が出なかった。



「八木愛。最近、病が発覚。余命僅か」


ドクンッ


心臓が高鳴った。


病気の事、親友以外誰にも言っていないのに!



「どうして、あなたが知っているの?」



「とにかく、だ。八木愛。手伝え」



はぐらかされてしまった。もう、そんなことどうでも良いや。



「分かったよ。何を手伝えば?」


「物分りが良いな。そうだな、俺が失った感情を蘇らせてくれ」


は?感情を、蘇らえ、らせる?何言ってだ、この人。



「はぁ。さっぱり分からない」


「これだけ言ってもか?とにかく、だ。面白い、嬉しい、楽しいなど俺は全てを失っている。だから、それを蘇らせるための手伝い、だ。わかったか?」


なるほど。いやいや、他にも誰かいたんじゃないの?何で私?


断る返事をしようとしたが先手を打たれた。


「断る、とかはなしだからな」



「分かったよ。手伝う」



「それで良い。ちなみに、俺の名前は空翔。吉村空翔だ」


吉村、空翔。かっこいい名前だな。



「じゃ、よろしくな。愛」


へ?ま、愛?きゅ、急に呼び捨て!?わ、私も空翔って呼んだほうが良いよね?


「よ、よろしく空翔」



「ん。ほら、さっさと帰るぞ。って、お前傘持ってない、か?」


「持ってる」


「そうか」


もしかして、心配してくれたの、かな?トゲトゲした性格かと思ったけど、意外に優しいんだ。へぇ〜。


「ふふっ」


思わず、声になって漏れ出てしまった。



「何だよ、気持ち悪い」


「失礼ね!」


そう言った途端視界が真っ暗になった。


「おい、愛!?」

薄れゆく意識の中で空翔の声が頭の中で響いた。
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