きみに恋した数ヶ月。〜君にさようならをする時〜

10年の歳月

愛が亡くなってから10年の歳月が経った。俺は、27歳になった。


今、俺の仕事は医者でも脳神経外科だ。


あれから、愛の両親とは度々会い近況報告をしている。2人には、本物の親のように俺を見てくれていた。



「吉村せんせ!」


そう言って、抱きついてきたのは脳腫瘍で入院中の世良愛(せらまな)ちゃん。今年で10歳。愛と同じ名前だからよく覚えている。


「どうしたの?」


「あのね、せんせに見てほしいものがあるの」


そう言って、恥ずかしそうにモジモジする愛ちゃん。


「何?」



そう言うと、来て!と言い自分の病室に俺を連れてきた。



「これ!」


そう言って見せたのは、白いノートパソコンだった。



「パソコン?」


「うん。見てほしいものは、この中にあるの」



そう言って画面を操作し一つの画面に文章があった。


「これは?」


「小説。何だか、私の記憶にはないのにどこか懐かしい記憶があったからそれを書いてみたんだよ。どう?」


そう言って見ると、驚きのことが書いてあった。



それは、“俺と愛との過ごした時間たち”が書かれていたから。



画面をスクロールすると俺が知らなかったことまで書かれていた。 



その文章に、涙が溢れてきた。


愛、目の前にいる彼女の前世ー八木愛に語りかけた。


ちゃんと、俺と過ごした時間が残ってまた逢いに来てくれたね。ありがとうー。



そう思っていると彼女が心配してきた。


そう言って、ぎこちなく指が触れた。まさしく、その体温は愛と同じで同じ感触だった。



その時、世良愛の姿が八木愛へと姿が変わって見えた、ような気がした。




                                    -end-
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