きみに恋した数ヶ月。〜君にさようならをする時〜
私は、君の話を聞いてショックを受けてしまった。


だって、大好きな人って。まぁ、あんなにイケメンだったら彼女はいてもおかしくはない。



16歳の夏、失恋した。


昼休みのあのあとから、空翔は私と話そうとしていたけれど、私はそれを上手く交わして距離をとった。


ピコン


出会った日に、空翔がしつこく連絡先の交換を言ってきた。ちょっと、うざいなぁと思いつつ繋いだ。


【お前、何か誤解してね?】


そんなメッセージだった。誤解?していないんだけど…。


続けて、またメッセージが来た。


【大好きな人って、俺の兄妹のことだぞ?】


は?兄妹?え、マジ?やば、誤解してた。


【どういうこと?】

【どういうことって…。わかったよ、1から説明する】


【お願いします】


【まず、俺は二卵性の双子で妹がいた。名は、空って名前だ。俺の母親は、病弱な人だった。俺は、父に似て体は強い方だった。だが、空は体が弱かった。5歳のとき、病気のせいで視力を失った。その後は、白杖を持った生活に。
そして、起こってしまった13歳の夏。空は、車にはねられて即死した】


え、
妹さん、空さんが事故で死んだってことは、それが引き金で…。


【それからだった。俺の感情が薄れていくのが分かった。そして、14歳になると完全に何も感じなくなった】


そう、だったんだ。


【ねぇ、空翔。じゃあ、なんで私の名前を?】


【母さんのお見舞いのとき。あれから、母さんは壊れていった。そして、病院内で愛に出会った】


【え、でも病気のことは?】


【お前が薬を飲んでいるとき。お前は気づいていなかったが、俺近くにいたんだよ。それで、薬の名前をみて調べたら病気の薬ってわかって、それから色々調べた】


【そう、だったんだね】

【あんとき、俺がお前を助けたときお前をつけていたんだよ】


つけて、いた?気づかなかった…。


【そしたら、自殺しようとするからビビった】


【うん、ごめんね。でも、助けてくれてありがとう】


【別に。もう、自殺しようとするなよ】

そんな彼の言葉が、すごく心に残った。
9 / 31

放課後を迎えた。


私達は、近所にあるサッカーができる大きい公園にやって来た。もともと、このあたりが静かだからか人通りも住宅も少ない。あるのは、お金持ちか、と思わせるほどのバカでかい私の家、それと同レベルくらいでかい空翔の家、美南の家ぐらい。本当に、静かなこの辺が私は好きだった。


「じゃ、やるか」


「うん」

サッカーのルールよく知らないんだよね。ネットにゴールを入れたら得点が入る、というぐらい…。


「シュートは、できるか?」

空翔の言葉に、ムッとしてしまう。


「それくらい、出来ますよ〜、だ」


「じゃ、やってみろよ」


そう言って、自信満々でシュートを打ってみた。

が、失敗。


「あ、あれ?最近やっていないからかな?おかしいよ〜」

「ブッ」

見ると、空翔が笑いを堪えていた。いや、堪えられていない。


「あ〜、涙出てきた。なんだろ、この感情。笑えるわ〜」


むぅ。失礼だな。


「もう、答え出ているじゃん」


「えっ?」

わからない、という表情を浮かべる空翔。


「それはね、“面白い”という感情だよ」

「面白い、か…」


しばらく、空翔は黙っていた。面白いという感情について深く考えているかもしれない。



「ん、愛。俺がお手本見せてやる」


そう言って、シュートを打った。


結果は、見事ゴール!


「すごい!」


「ははっ。なんだろう、な。また、感情を思い出した。褒められると、心がくすぐったくなる。この感情は、なんだ愛?」


え、それって…。え、でも?んん?どっちー?

「そ、それはね、多分?だけど“嬉しい”って感情じゃない?」


「嬉しい」


1日に2つも感情を蘇った空翔。あと、残るのは、悲しい、感謝。あと、好き、かな?あ、いやLikeだけど…。でも、私のことを好きになったら両思いだな〜って。


「愛、そろそろ帰らないといけない時間じゃないか?」


そう言って、フワリと笑顔を浮かべた。


ドキッと心臓が音を立てた。あまりにも自然で、少しあどけなさが残った笑顔。その笑顔を、ずっと忘れたくなかった。


「あ、うん。で、でも最後に1枚だけ写真撮りたくない?」


「写真?」


「そう。空翔と」


しばらく、考えポーズをしてからいいよ、と言った。

あれ?空翔、優しくなっている。これも感情のお陰?とりあえず、良かった…。これが、本来の空翔なんだろう。

「はいチーズ」

パシャとカメラの音が静かな夕方の公園に響いた。


最初の写真は、気恥ずかしそうな顔だけど笑顔の八木愛とフワリと優しい笑顔を浮かべる吉村空翔のツーショトだった。
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