きみに恋した数ヶ月。〜君にさようならをする時〜
「ただいま〜」


「あら、おかえりなさい。ご飯よ、準備手伝って」


そうか、もうご飯の時間か。

グーギュルルルル

お腹がなる音が響いた。その音に、お母さんとお父さんは大笑い。


はずい。


「もう、はやく食べようよ」

そう言ってやっとお母さん達は食卓についた。


今日の夕飯は、ハンバーグ。


「そう言えば、ハンバーグで愛小さいころね、ソースを削ぎ落として食べていたのよ」

「え、そうなの!?」

「あぁ」とお父さんも言った。


ソースを削ぎ落とすって何も味しないじゃん。自分のことなのに、訳分からない。


お母さん達は、私が余命宣告を受けてから秘話をよく教えてくれた。


「あ、ねぇ愛」

「なぁに?」

「好きな子、出来たんじゃないの?」


「そうなのか!?」

2人の言葉にいたたまれなくなった。

「あ、うん、多分…」


「「おめでとう」」と2人は言ってくれた。


「麻優(まゆう)にも報告したら?吉報じゃないの」

麻優、お姉ちゃん。



お姉ちゃんは、私が13歳の夏、小さい子を庇って事故に遭い死んだ。享年、16歳。ちなみに、姉がかばった子も死んでしまったらしい。


そこで、あることに気が付いた。


空翔の妹さん、空さんとおんなじ時だ。


ガタッー、と席を立った。


急いで、スマホであることを検索する。

「愛?どうしたの?」

お母さんの声が遠くに聞こえる。


2021年7月5日 超丘市 車のひき逃げ事故 詳細

そう、調べた。

検索すると、当時の記事がたくさんでできた。

その中の1つを開いた。
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2021年7月5日、午前11時、超丘市では車と歩行者の轢き逃げ事件が発生。

目撃者よると、亡くなったのは八木麻優さん(当時16歳)と吉村空さん(当時13歳)が巻き込まれ、2人はすぐに病院に搬送されたが即死だった。八木さんは、吉村さんを庇おうとし巻き込まれたそう。


犯人は、過失致死の疑いと轢き逃げで盛 健人(もりけんと)容疑者が逮捕された。

裁判の結果についても載っていた。


有罪で、7年の懲役だと言うことが判明した。つまり、もう容疑者が出ることには私はもうこの世にいない。

まさか、と全部を読み終えてそう思った。だって、自分の姉が空翔の妹さんを庇い2人とも亡くなってしまった。

これを知ったら空翔は、どんな反応をするだろうか。


「愛?顔、真っ青よ。どうしたの?頭痛い?」

「ちが、う…」

「どうしたの?話せる?」

「うん、ちょっと待っててね」

お母さん達に、待ってもらい私は空翔にメッセージを送った。

【明日、近くの公園で待ってる。お話がある】

すぐに、既読が付き了解のスタンプが、届いた。


「愛?」

くるり向き、お母さんたちと向かい合った。

「うん、あのね大事なお話があるの」


「何かしら?」

「明日、私の好きな人を連れて来る。そして、そこで私が青い顔をしていた理由も話す」

2人に、戸惑われたが了承を得られた。

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事故の真実と感謝の気持ちを

翌日、私は待ち合わせの所に向かった。

着くと、もう空翔はそこにいた。


「愛!」

爽やかに手を振っていたが私の硬い表情を見て顔が曇った。


「空翔…」

「何?」

「大事なお話が、あるの」

コクリと頷いて近くにあったベンチに隣同士で座った。


心臓は、バクバクしていたけれど気に留めなかった。


「んで?」


「あのね、空さんのことについて、なの」

空翔の瞳が揺れた。


「空さん、は13歳のとき事故にあって亡くなってしまったでしょう?」

「うん」


「実はね、私には1人の姉がいた」


この「姉」というワードを出すたび胸が苦しくなる。それくらい、私は麻優お姉ちゃんが大好きだった。


「その姉は、私とは3歳差で、姉はもういないの」

「…」

「死んじゃった。3年前の夏に」


ふと、空翔の顔をみると驚きを隠せない様子で、でも話の糸口が見えてきたという顔をしていた。


「もし、かして…」


「そう、だよ。姉は、人一倍優しかったから。困っている人を助けて、そういう職業に就きたいって言っていたのに…。その夢は、3年前のときで途切れた。でも、最後の最後で姉は人を助けた。でも、さ、その子も死んじゃったけど…」

「お姉ちゃんは、空翔の妹の空さんを庇って死んだの!」


気がつくと、涙が溢れ出ていた。いや、出ていたのかもしれない。それに今気がついたのかも…。


「そん、な…」

空翔は、うなだれていた。


私達には、こんな関係があったんだね。

姉を亡くした八木愛と妹を亡くした吉村空翔。


「見て、空翔」


そう言って、昨夜見た記事を、見せ2人で泣きまくった。


これで、いいんだよねー?麻優お姉ちゃん。


「ありがとう、愛」

そんな声が聞こえた気がした。


「でね、空翔。これからうちに来ない?話さなくちゃいけないこともあるし」


「ありがとう、愛」


え、“ありがとう”?もしかして、感謝の気持ちを?


「また、1つ蘇った」

そう言って、くしゃりと笑った。
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