きみに恋した数ヶ月。〜君にさようならをする時〜

驚きという感情

空翔Side

「どうぞ、上がって」

愛の家は、なんというかしっかりとした作りの家で高級感が垣間見えた。


「お父さん、お母さん」


「この人は、吉村空翔だよ」

そう言って、愛は俺を紹介した。

「こんにちは、クウトくん」


にこやかに挨拶したのは愛の母親だった。よく似ているな、と思った。


「こんにちは」

父親は、愛と、目元が、似ていた。


「クウトくん、どういう字?」

「空に翔って書いて空翔です」

「いい名前だな」


愛の両親は、優しかった。

「んで、愛、なぜ空翔くんを呼んだんだ?」

「うん」

そう言って、愛は姉と思われる遺影を持ってきた。


「麻優が、どうしたの?」

「お姉ちゃんは、3年前の夏死んだじゃん?」

「そう、ね…」

父親は黙っていた。ただただ首を縦に振るだけ。

「お姉ちゃんは、事故に巻き込まれそうに、なった子を助けようとして一緒に巻き込まれた。その子も亡くなっちゃったけど…」

「それで?」

「その子の、兄がここにいます」

「「空翔くんが?」」

愛の両親は、驚きを隠せずに、いた。

「うん。そう」


「そう、ありがとう」

ありがとう?その言葉に微かな疑問を覚えた。


「なぜ、ですか?」


「こうして、あなたは会いに来てくれた。妹さんは、もういないでしょうけど代わりに会いに来てくれた。ありがとう」

そう言い、愛の両親は深々と頭を下げた。そして、思った。これがありがとうか、と。


「頭を、上げてください。俺は、事故の現場にいた。にもかかわらず、2人を死なせてしまいました」


「普通の人はね、できないものよ。私だって…」


愛の母親は、過去の記憶を思い返しているかのようにしみじみと言った。


辛い過去があったんだろうな、という事が表情から読み取れた。


「うん。これで、このお話は終わりましょう。空翔くん、何か飲む?」


「私、ブラックコーヒー!」

愛が元気よく言った。俺は、ブラックコーヒーという単語に少なからず驚いた。あ、思い出した。


これが、“驚いた”か。


「空翔くんは?」


「俺も同じく」

「じゃあ、ちょっと席についてて」


そう言われ、愛と2人で席についた。


「愛」


「どうしたの?空翔?」


「また、感情が蘇った」


「良かったね」


静かだけど愛は喜んでくれた。


その言葉にドキッとした。何だ、これ?何か心臓が高鳴っている。なんだろうか?まぁ、後日誰かに聞くか。インターネットでもいいし。


「で、ちなみにどんな感情?」


「感謝と驚き」


「確実に増えているね」


そう言って、愛は笑った。



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