恋のコードが解けるまで

【☆第一章☆】 天然プログラマ



藤野杏奈《ふじのあんな》は、すれ違う人がみな振り返るほどの天然パーマの持ち主だ。

ブルーライトカット眼鏡に爆発したようなヘアースタイル。
ファッションセンスは昭和感を漂わせ、足元は3年物のクロクス。
究極にダサい女だった。
 
 
株式会社HGUIは、産業機器の開発製造の卸販売、輸出入等を行う一部上場企業だ。杏奈は社内の情報システム部(情シス)で働くプログラマーだ。社内システム系、自社システムの構築や運用などを主な仕事としている。

 
「有田さん、頭にボールペン刺さないでもらっていいですか」
 
特に急ぎの仕事がないのか、プロジェクトリーダーの有田は杏奈の髪の毛にボールペンを刺して遊んでいた。
いつもはもじゃもじゃヘアーを百均のヘアゴムで束ねているのだが、先ほど何かの拍子にそのヘアゴムがブチっと切れてしまった。拘束を解かれた杏奈の毛髪は縦横無尽に飛び跳ねていた。
 
「おまえ、ゴム忘れたの?輪ゴムならあるぞ」
 
有田は引き出しを開け輪ゴムを取り出そうと探し始めた。
彼は社内SE(システムエンジニア)の中でも優秀で、かなり仕事ができる。
杏奈は入社してすぐに有田の下につき、あらゆることを指導してもらった。

「取るとき毛に引っかかって大変な目にあうんで、輪ゴムじゃ無理です」
PCモニターに視線を残したまま、杏奈は答える。

「ああ、確かにな……」
 有田は納得したように頷き引き出しを閉めた。

今はこんなふざけた態度の先輩だが、こと仕事に関しては勘が鋭く、トラブルの予兆に一番最初に気付く。
何より圧倒的なスピードで正確に仕事をこなす。決断や行動にも無駄がなく、会議や打ち合わせは簡潔に終わらせる。
 
「……ってか綿棒とか、軽いのものならいくらでも刺してもらっていいんですけど、ペンとか爪楊枝とか先が尖っているものは下手したら流血もんですから」
杏奈は頭を左右に振って、刺さっているペンを振り落とした。
 
「綿棒ならいいのかよ・・・・・・」

有田はキーボードの掃除用綿棒を探し始めた。
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