恋のコードが解けるまで

「鈴木マネージャーが先ほど佐伯さんに頼んでらっしゃった『仕事』をきちんとしていただければ文句はありませんので、お手数ですがよろしくお願いします」
杏奈はそう言うといつもの無表情で女子トイレを後にした。

先ほど会議室で鈴木GMは佐伯さんに、杏奈の出張の準備を手伝って欲しいと言った。秘書課の方ならTPOに合わせたスーツを用意できるだろう。今回はパーティーもあるので色々揃えなくてはいけないでしょうからと。
 
『いつも佐伯さんは洋服をお洒落に着こなしていらっしゃいます。姿を見かける度に、秘書課の皆さん流石だなと感心して見ています。なにより佐伯さんはセンスがいいと個人的に思うのでよろしくお願いします』
それとなくセンスを褒め、相手の機嫌を損ねないよう、上手に仕事を頼む手腕。やるなこの人と思わせる『できる男』っぷりだった。


交換したSNSに佐伯さんからメッセージがきた。
 
『藤野さん。あなたスーツはどんなものを持ってるの?』
 
『4年前に買ったリクルートスーツがあります』

 
既読無視された。
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