恋のコードが解けるまで

藤野安奈という人間


ロシア語しか話せないまま日本の小学校へ入学した。日本人特有の『みんな一緒ワンチーム』な感覚に慣れず孤立し、地獄を見た。必死に日本語を学び勉強やテストなど仲間を必要としない物に力を注いだ。小学校時代は1人も友達ができなかった。
見兼ねた両親がパソコンを買ってくれた。インターネットで世界中を飛び回り、老若男女SNSであらゆる国の友達を作った。
ここで養われたのは外国語力。

中学性になった。地元に少しは馴染もうと、自分から話しかけて友達を作る努力をした。けれど成長期はまだ顔の作りが外国人のそれで『まるで天使のよう』な美しいものだった。それが災いしたのか思春期の女子たちから敬遠された。
一般的な平たい顔の日本人ではなかった杏奈は他と区別された。差別ではない区別。
そこで学んだことは、他人がどう思おうと気にしない。常に平静でいる、動じない。無表情。

高校は県外の進学校に入学した。この時期には成長期などを経て外見は完成され、ほぼ日本人の顔になっていた。日々勉強の日常の中で、情報工学に興味を持ちコンピューターオタクの仲間入りをした。
パソコン部に入部し、メガネをかけた髪の毛ぼさぼさのアニメTシャツ小太り男子たちと青春時代を過ごした。
そこで郷に入っては郷に従う能力で、ダサさを極めた。

大学は情報工学系へ進んだ。そこでソフトウェアのプログラミングの美しさに出合った。美しいソースコードを見ると悶絶した。コンピュータの中でプログラムは思いどおりに動く、それこそがコンピュータのよさ。良いソースコードにたくさん触れていたいと感じ、孤独を愛し面倒な人との関わりを極力減らすため己の存在感を消す特技を学んだ。大学の講義で一度も教授に当てられなかった事がスキル習得の証だ。

こうして【藤野 安奈】という人間が形成された。
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