恋のコードが解けるまで
「情報システム部での仕事もあっただろうけど無理言ってしまって申し訳なかった」
搭乗手続きをしている杏奈のスーツケースを鈴木さんがコンベアに乗せてくれた。なんかとてもジェントルマン。
「社外秘で進めているプロジェクトだから外部から通訳を派遣してもらうのは避けたかった。藤野さんがいてくれて本当に助かりました」
手続きを終え「お役に立てるよう頑張ります」と言うと、よろしくと笑顔で返してくれた。
いやもう、とても苦手なタイプだ。
重い荷物は杏奈に持たせ、頭に爪楊枝を刺してくる有田さんの方がよっぽど楽だ。ジェントルマンに対応する能力がなさ過ぎて杏奈は存在感を消すスキルを発動した。
出発まで自由に過ごすよう言われ、それ以降、特に話しかけられることもなかった。
少しでも待ち時間が発生すると、鈴木さんは仕事をした。空港ラウンジに入ると、またパソコンを起動して仕事を始めた。
杏奈だけ仕事しないのは気が引けるので、『羽田につきました。これから搭乗します』とインフルエンザ多田さんにメールを送った。
ロシアのニュースをスマホで聴きながら多田さんが昨日メールしてきたロシアの企業カラグラコフの取説を再度確認した。