恋のコードが解けるまで

東京


杏奈の住むアパートは築50年以上のボロアパートだ。来年取り壊しになるので、後8か月しか住むことができない。そのせいか結構広めの2DKなのに家賃が破格だった。
アパートの住人は今では、杏奈と、職業『女装バーの人気キャスト』だというリリカさんの二人だけになった。
 
リリカさんは昨年まで外銀のサラリーマンだった。激務続きで毎日気絶するように眠って、仕事へ行く。そんな暮らしの反動で本格的に女装の趣味にはまったという。昔から心は女の子だったといっていた。
彼女は4年前からアパート借り、女装専用の部屋を作ってストレスが溜まるとそこで女子に変身した。
当時タワマンに住んでいたがそこにはあまり帰らないようになっていた。
 
めったに顔を合わせたことのなかった隣人が、部屋の前で倒れているのを発見し、杏奈がそれを助けた事をきっかけに仲良くなった人だった。

今は賃貸に出しているらしいタワマンと、外銀時代の預金を投資に回して利益を受けて生活している。お金持ちなのになぜかこのボロアパートに住んでいた。
 
北海道のお土産を渡しにリリカさんの家へ行った。
 
 トントントン。

 トントン。

『ガ、ガ、ガ、ガチャン』とドアが開く。
なにせ古い建物なので半分蹴り倒すような勢いでないと開かない。いつか壊れるなと思っているが、どうせ取り壊される運命なので大家さんは何も言わないだろう。
 
「びっくりした!なにかの変なセールスか、宗教勧誘かと思ったわぁ~誰だか分かんなかった。ちょっと変わりすぎじゃない?あの焼きそばみたいな髪の毛どこいったの?これ地毛、地毛?」

矢継ぎ早に質問が飛んできて、答える前にまた次の質問がくるあるある。
 
やっと自分の家に着いた時には、出張の疲れもあったのか化粧もお落とさずにそのまま爆睡してしまった。
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