恋のコードが解けるまで
「トントントン」
ドアがノックされた。
「カレー~カレー~今晩はカレ~」
カレー皿とスプーンを片手に持って歌いながら部屋へ入ってきたのはリリカさんだった。
「うわ、え、うそ誰?お客さんだった?初だわ……はじめましてー」
リリカさんコミュ力ハンパない。接客に慣れているのか、それとも鈴木さんがリリカさんのタイプなの、か彼の横にペタリと座った。
「どうも初めまして、お邪魔してます。藤野さんと一緒の会社で働いてます、鈴木と申します」
「あら、かったーい挨拶ね」
そう言うとリリカさんは正座して三つ指をついた。
「杏奈ちゃんの隣の隣に住んでますリリカです。いつも夕ご飯ご馳走になってます。よろしくお願いします」
可愛らしくペコリと頭を下げた。
「非の打ち所がない顔よね。やっぱり会社でもモテるでしょう?彼女さんとかも社内だったりします?」
「いや、ぜんぜんモテないです。最近は仕事ばかりで彼女を作る時間がないです」
そんなことはないでしょう。出張で部屋に入られたり、秘書課の人に狙われたりしてたじゃないですか鈴木さん。
こういう話題はイケメンにはいつもの事なんだろうなと思いながら、リリカさんが来てくれたから話に困らなくていいやとホッとした。
「鈴木さん。会社の女性たちから、優良物件っていわれてます」
イケメンの『ぜんぜんモテない』は謙遜なんだけど、高確率で陰キャの『コミュ障なんで』は全くその通りの事が多い。そんな事を考えていたら思わず鈴木さんの優良物件情報をリリカさんに与えてしまった。
「え?俺?」
「確かに結婚適齢期なら優良物件だわ。失礼ですけど。よかったらおいくつか訊いていいかしら?」
興味津々リリカさん。鈴木さんを質問攻めにしている。
「10月で32です今は31歳です」
「えっ?」
杏奈は声に出してしまった。
「そうよね~二十代に見えるわよね、すごいお肌ツヤツヤだし」
いやそうじゃなくて。
「有田さんが40歳だって言ってました。お若かったんですね」
「は?あいつ、同期だし」
鈴木さんがちょっと怒ってる。イケメンもムッとするんだなと人間味を感じる。同期なら、有田さんと同い年じゃないか。