恋のコードが解けるまで

有田の部屋で


翌週半ば、有田さんが仕事を休んだ。体調を崩したらしい。

昼過ぎに、部長が誰か様子見にいってやってくれないか、とクリリンと杏奈に住所を書いた紙を渡した。

クリリンは午後から来客があったので、自ずと杏奈がその役目を引き受けた。なんか買って行って、と部長から1万円渡され2時に仕事をあがった。定時退社扱いにしてくれた。

ラインメッセージしても、電話しても繋がらなかったので、もしかしてと最悪の事態を考えながら、有田さんの家の辺りをウロチョロしている。というか迷っている。
どう考えてもスマホアプリの示す地図がなんかおかしい。飲食店やクラブ、怪しい事務所などが入っている6階建ての古いビルを示しているのだ。間違って入り込んで、そのまま行方不明になったら、誰か私を探してくれるだろうか……と不安になりながら、6階だての最上階へ足を踏み入れた。

ノックしても返事はなく、鍵が開いていたので勝手にお邪魔する。バーのような作りのカウンターがあってビンテージ風のソファーが置いてあった。
 
「すすみません。どなたか……」
人の気配はない。
 
「有田さんいますかぁ……」
静まり返った部屋の中に杏奈の声だけが響く。窓は一面ガラス張り。
 
部屋の中はビールの缶とペットボトル、台所は食べたものがそのままの状態だった。ゴミ屋敷とまではいかないが、忙しくて片付けまで手が回らなかったのかなという感じだった。
 
よく見ると奥の一角に高機能、高性能の自宅サーバーが置いてある。杏奈は、あ、これ有田さんの家だと確信する。

有田さんはこのバーの元VIPルームだったらしい部屋に寝ていた。一応寝室にしているみたいだ。着たものは脱ぎ散らかされていた。
シングルのパイプベットの上で、苦しそうな呼吸音がする。杏奈は急いで彼の様子を確認した。

額に手を置くと、熱があった。多分高いだろう。声をかけてスポーツ飲料を飲ませた。寒いというので布団を探し出し上にかぶせた。病院に、と言うと「メンドクセェ寝たら治る」と言うので、薬を呑ませて保冷剤で首を冷やした。意識はある、薬で熱が下がらなかったら無理やり連れて行こうと決めた。

 
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