恋のコードが解けるまで

「藤野さん。すみませんが、ロシア語で自己紹介してもらってもいいですか?」
突然部長の隣の席から、鈴木GMが言ってきた。

面倒くさいなと思った。

鈴木GMが杏奈に向かってどうぞという感じで、その奇麗な眉を上げたので仕方なく話し始めた。

『情報システム部のプログラマーの藤野安奈です。……えっと……嫌いな食べ物はいちごです。何故かというと、いちごのあのぶつぶつした種の部分が人の鼻の毛穴のように見えるからです。1度鼻だと思ってしまうと、もう鼻にしか見えなくなり、いちごが食べられなくなりました。』

「以上です」

滅茶苦茶な自己紹介をした。ここにいる方々はロシア語を理解できないだろう。そして私の好き嫌いに興味もないだろう。

海外事業部の部長は社名と名前以外のロシア語は聴き取れていないようだ。
気のせいか鈴木さんは口元を抑えて笑っているように見えた。


「藤野さんはロシア語が身についてらっしゃるようですね」

そう言うと、鈴木さんが部長に何か耳打ちした。
もしかしてロシア語通じた?少し焦ったが二人とも”いちご”に関して何も言わなかったのでセーフ。

会議室から部長と鈴木さんが出ていった。

 
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