恋のコードが解けるまで
しばらくして海外事業部の2人が会議室に戻ってきた。
「忙しい時に時間を取らせてしまって申し訳なかったね」
部長がそう言い、続いて鈴木さんが告げる。
「情報システム部の藤野さんに月曜から3日間北海道へ同行してもらいます」
「えっ!」
「えっ!」
秘書課の二人が驚いて杏奈を見た。
「……えっ……?」
一番驚いたのは自分ですと杏奈は高速瞬きをした。
「あの、差し出がましいかもしれませんが、藤野さんは他の企業の方とコミュニケーションをとるのは、少し難しいかもしれないのではないでしょうか?彼女は営業職でもないですし」
秘書課のベテランっぽい佐伯さんが言い辛そうに部長に言うと、杏奈はこくこくと頷く。若い方の堂本さんも口を開く。
「レセプションパーティーでは参加者のマナーというものもあるでしょうし、慣れていない方はどうかと……当日の服装とかTPO的に問題があるかもしれませんし」
いやいやそれはその通りで、おっしゃることに間違いはございませんが、本人がいる前で言うのか普通?思わず顔が引きつってしまった。
でもいいです。私は北海道なんて行きたくないですから。
「私たち秘書課は常日頃からお客様の対応をしています。海外事業部との仕事もたくさんしているので、ある程度仕事内容は理解してます。それに佐伯さんはTOEIC800点以上ですから、海外の企業の方々とも問題なく話せます」
英語が話せるのは素晴らしいけど、重要なのはロシア語。私はコミュ力最低だけど、ロシア語はネイティブなのよと言いたくなった。けどここでマウント取る意味がないので黙っている。
鈴木さんがタブレットを確認した。
「個人情報だからあれなんだけど、藤野さんは資料によるとTOEIC満点です。しかも5か国語以上話せるマルチリンガルですよね?」
秘書課の女性たちの視線が刺さる。
「……はい」
杏奈は小さく返事をした。