僕は彼女に絆されている
嫉妬するに決まってる
「――――――
ほんっと、腹が立つ。
ノコは僕だけのモノなのに……!」

ベッドに縫いつけられているように琉夏に組み敷かれ、両手首をベッドに押しつけられている華乃子。
 
この日華乃子は、夜更けまで琉夏の狂おしい愛情を刻み込まれた。



事の始まりは、数週間前に遡る――――……

この日華乃子は、朝から上機嫌だ。

「ノコ、ご機嫌だね!」
「はい!」

「ん?
なんでそんなご機嫌なのか、教えて?」
華乃子の腰あたりを包み込んで、顔を覗き込んだ琉夏。

「なんと!
今日は、向井(むかい) (まち)さんの新作小説発売日なんです!!
パチパチパチ……!!」

向井 町とは……華乃子の一番好きな恋愛小説家。
まだ30歳ながら、恋愛の神様とまで言われるほど人気の作家。

向井 町の描くカップルは様々で、華乃子の憧れなのだ。

「そっか!
買いに行くの?」

「はい!
仕事終わりに!」

「僕も…一緒にい?」 

そんな笑顔で、僕以外の人間のことなんて語らないでよ……

「もちろん!」

「じゃあ…本屋の前で待ち合わせね!」
「はい!」


その日の仕事終わり、琉夏と華乃子はデパートの書店に向かった。

一番目立つ平積みに“向井 町フェア”と銘打ち、向井 町の小説が並んでいた。

新作の小説を取り、抱き締めた華乃子。
その表情は、とても幸せそうだ。

琉夏はその表情を見て、またくだらないヤキモチを妬いていた。

「ノコ、早く買って帰ろ?」

「あ、ちょっと待ってください!
もう一つ、気になっている小説があって」
そう言って、小説を探している華乃子。

「ノコ!早く!
僕、お腹すいちゃった!」 
駄々をこねるように、急かす。

自分でもわかっている。
こんな程度でヤキモチを妬くなんて、みっともない。

でも、止まらない。

「あ!ありました!」
そう言って、小説の表紙を見せてくる華乃子。

「………」

違う。
僕が見たいのは、小説じゃなくてノコの顔。

琉夏はその小説と、新作小説を華乃子から取った。
「買ってあげる」
淡々と言って、レジに向かった。

「え!?琉夏くん!?」

「時計のお礼」

そう言うと、華乃子は嬉しそうに「ありがとうございます!」と言った。

可愛い……!

そう。
僕が見たいのは、この笑顔。

僕だけに見せてくれる、特別な笑顔だ。
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