僕は彼女に絆されている
レジで会計していると、待っていた華乃子がフリーズしている。

「ん?ノコ、どうしたの?」

「み、見て下さい!」 

華乃子が指差した所に“向井 町・サイン会”の文字。

「サイン会か。
新作小説購入の方…って書いてあるね」

「行きたいな…」

「今月末の日曜か…
行く?」

「はい!是非!!」

少し興奮気味の華乃子に微笑み返しながら、琉夏は(いいなぁ、ノコにここまで想われて)と、またどうしようも出来ないヤキモチを妬いていた。


自宅マンションに帰り着き、すぐに華乃子を抱き締めた琉夏。

「はぁ…好き…」

もう…ある意味、口癖のように“好き”と言う感情と言葉が出てくる。

「琉夏くん、小説ありがとうございます!」

「うん」

「後からゆっくり読みますね!」

「んー、後からは僕の相手して?」

「え?でも、今ゲームが途中って……
ハマってるゲームの難関レベルがクリア出来そうって、昨日話してましたよね?」

「あ、あー」
(そんなこと、忘れてたし)

「ゲーム、いいんですか?」

「うん、いい。
仕事の昼休みにでもするよ」

「じゃあ…ご飯食べたら、サブスクで何か映画とか見ますか?」

「うん、そうだね!」


そして……華乃子が夕食の準備、琉夏は洗濯物を取り込み畳んでいた。

テーブルの上の、今日買った小説に目が行く。

一つ取って、パラパラとページを捲り見てみる。

「……………ん?」

最後のページの作者紹介のところで、琉夏の動きが止まり固まる。

「琉夏くん、ご飯出来ましたよ〜
……………ん?どうしました?」

「ね、ねぇ…
向井町って……“男”なの……!?」

そこには、男性の写真が載せられていた。

「へ?
はい!
凄いですよね〜
まだ、30歳なのにこんな素敵な恋愛小説書けて!」

男だったの……?

………え?
………え?
じゃあ…ノコは“男”相手に、あんなに心を躍らせて、目を輝かせて、嬉しそうに話してたの……!?

「琉夏くん?」

「…………どっち?」

「え?」

「僕と向井町、どっちの方が素敵?
どっちの方がカッコいい?
……………どっちの方が好き?」

「え?え?え?」

「………」

「え?
る、琉夏くん…!?
ど、どうし――――――」

「あーごめん!
違う!
こんな事が言いたいんじゃなくて…!!」

思わず本音が出てしまい、慌てて弁解しようとすると……

「そんなの…比べる必要なく、琉夏くんです!!」

「え?」

華乃子は、はっきりした口調で言ったのだった。
< 36 / 43 >

この作品をシェア

pagetop